【戦国BASARA】流離いの料理娘、いざ行かん!参【トリップ】

料理113 ページ18

「…無いだろ」

あたしの答えに家康は痛感された様な顔を見せる
自覚はあったがいざ突き付けられると悲しいんだろう

家「そうか……」

一言ぽつりと呟いてまた景色を眺める
さっきの凛々しさは薄れて憂いが浮かび上がる

家「祇園精舎の鐘の声…諸行無常の響きあり、か」

平家物語の冒頭文

確か“祇園精舎の鐘の音には、万物は変転し、同じ状態でとどまることはないという響きがある”だったな…

変わらないものはこの世には無い
時間が経てば必ず変わる
それがこの世界の真理

しかしそれは時に悲しく残酷なものにもなる

家「乱世な為、人は知らず知らずの内に変わらないものを探し、縋ろうとしてしまう。ワシもその1人だ…。変わらないものが無ければ、頼るべきものが何も無いと思ってしまうんだ。それが……ワシは恐ろしい」

家康は悲しそうな顔をしたかと思うと自嘲気味な笑みを浮かべる
明らかに無理矢理笑っている

家「こんな弱気な大将ではいかんな、矢張り…ワシは駄目だな」

その笑みがあたしには如何しようも無く腹立たしかった
家康の胸倉を思い切り掴んで引っ張る
後少しで顔が付きそうな距離だった

「変わらねぇモンが無くても、守りてぇモン位はあるだろうが!!」
家「ッ…」
「確かに何かに縋らなきゃやってけねぇ時だってある。それは誰でもそうだ!当たり前だろ、人間なんだから!!完璧な人間が居るとでも言いてぇのか?だとしたらそいつは人間じゃねぇ、何か大事なモンを失くした只の馬鹿だ!!」
家「A……」

頭に上った血が沸騰しながらあたしの頭を茹らせていく
最早あたしに冷静さはなかった

「大将だから何だ、弱み見せるなだと??そんな事してりゃ何時かぶっ壊れるぞ!ぶっ壊れたら次は別の人間が同じ様にぶっ壊れちまう、それを防ぐ為に仲間が居るんじゃねぇのか!!」
家「!!」

我に返った様な反応を見せる家康の胸倉を離す
2、3歩下がって考え込む家康をあたしは只睨んで続けた

「戦国最強の本多だって居る、テメェに最後まで付いて行くっつってる家臣も居る、それの何が不満で我慢し続けてんだテメェは」
家「……ワシ、は…」
「テメェが言っていた絆、それは簡単には変わらねぇモンなんじゃねぇのか」
家「絆……そうだ、絆だ」

納得がいったのか家康はさっきと同じ
否、さっきとは全く違う、精悍さを顔だけではなく体に宿した
そして優しく微笑む

家「有難う、A。ワシもまだまだだった」
「別に、思った事を言っただけだ」

朝日が昇る庭で2人は笑った

料理114→←料理112

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す