【名探偵コナン】不幸後は全て幸福成り得たり5

甘いマスクの下は… ページ28

「頼まれ事をしているので、手短にお願いします。」

胡散(うさん)臭い表情で私に声をかけてきた眼鏡の男性に、人の良さそうな笑みを浮かべて応える。
すると、彼は遠慮なんて知らない様に話を続けた。

「実は、近所の小学生が遊びに来るんです。そこで、料理を振る舞う事になったはいいものの、何を作ろうか迷ってしまって……」

「つまり、子供が喜びそうな料理を知りたいと…」

はい、と首を縦に振る彼に少し笑いそうになってしまう。
だって、凄腕スナイパーが子供の胸を射止めようとしているなんて、しかも料理で…

「カレーやシチューなんかは外さないと思いますよ。作るのも簡単です。あとはサンドウィッチとか？」

「サンドウィッチですか？」

「はい。好きな具材を挟めるし、振る舞うのも良いとは思いますが、自分達で作るのも楽しいのではないでしょうか？」

なんて最もらしい事を言ったつもりになっているが、正直何も思いつかなかった。
そんな時私の頭を過ぎったのは、ご察しの通りハムサンドだ。

サンドウィッチとサンドイッチ。
昔、どちらが正解なのかで口論になった事がある。最終的にどちらでもいいという結論に至った。
英語を日本語にしている以上、多少の発音の差はしょうがない。

おっと、そんな事はどうでもいいか。

「初対面な上、用事がある所一緒に考えて頂き、ありがとうございました。貴女は見ず知らずの人にも優しいんですね。」

こんな言葉を赤井が言っているのかと思うと微妙な所だが、これで落とされる女性は一体何人いるのか……
数え切れなそうだ。

殆ど完璧に優しい人を演じている。ごく僅かに違和感を覚えたけれど…

「……何処かでお会いした事あります？」

「いいえ、今日が初めてだと思いますが……何故その様な事を？」

「いえ、見ず知らずの人に"も"とはまるで、知り合いと話している所を見た事がある様な口ぶりだったので…」

「ホォー鋭い観察眼をお持ちのようで…」

顔と声が変わっても、変わらない迫力にニヤつきそうなのを堪える。
やはりまだ素が見え隠れしている。

「一応、探偵ですから。まあ、唯の言い間違いって事もありますからね…」

時計を見ると予定していた時刻を過ぎそうだったので、返答を聞かずに別れを告げて店へ戻った。



「やはり、手強いな。」

甘いマスクの下で、ある男性は呟いた。

貴女は私を彼処から遠ざけたいのだろう→←癒しの時に忍び寄る影

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