虚月が浮かぶ【悲系/AN,AS】《完結》 (ページ5)

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蒼い三日月に煌めく無数の星々。
まるで銀河の中。こんな風景は地球上の何処にいても見られないだろう。
……それ程の美しさが彼を包んでいる。

白鳥もどうやらこの景色を楽しんでいるらしく、ゆっくりと羽ばたいていた。

暫くして彼の眼下にソレとは全く別の種類の灯りが見え出した。
ソレは明らかな人工灯。
(もうここは現世なのかな？)

増える灯りは小さな煌めきを消す。

やがて、白鳥はある高層ビルの上にそっと降りた。そして彼を下ろす。

「ありがとうございます」

ここが何処なのか、彼はイマイチ分かって無い様だった。
それでもヒトツだけ確信していることがある。

(現世に帰ってこれたんだ！)

下では車のヘッドライトが行き来し、遠くから人の笑い声が聞こえる。
アノセカイでは有り得ない光景だ。
街の雰囲気から夜遅い時間だと分かる。
――多分、零時は過ぎているだろう。

それでも人通りが絶えないということは、ここは都会だろうか。

バサッ――！

また、あのときと同じ旋風が舞う。

「やっぱり、さっきの白鳥は守り人さんだったんだね」

やはり無表情だが、冥界の入り口に居たときよりは何処か笑顔が綻んでいる様にも見える。
だが彼は、何故そう見えるのかまでは分からない。

絶えず聞こえる街の音を懐かしそうに聴いてる彼に、守り人は声を掛ける。

「また、死後に会いましょう」

彼の瞳をしっかりと見つめ、静かに言う。
だけど――。

「……何、で？」

明らか動揺する彼。
そして渡し守が言った台詞を何度も反芻する。

『感情は無い――』

確かに渡し守はそう言った筈。
(じゃあ、何で守り人さんは“笑って”いるの？)

先程の笑みは気のせいだったかもしれないが、今は、確実に……。

再び旋風が巻き起こる。

バサリと羽音をたて、夜空へ飛び立つ白鳥。
あっという間に夜の彼方へ消えて行った。

「――おやすみ」

何処か遠く、冥界の守り人の優しい声が聴こえた。
それと同時にどしっと彼に眠気が襲う。
(ここで寝たら……)

＊

次の日の朝、彼は誰かに叩き起こされた。
そこは勿論(もちろん)高層ビルの屋上。
太陽は随分高くまで昇っていた。

「あっ起きた……。君、大丈夫？」
「ずっとここにいたの？風邪ひくよ」

半場眠気眼の彼に声を掛ける2人の男性は、強引に彼を立たせる。

「取り敢えず下に行こう」
「あの、自分で歩けます……」

もう、アノコトを彼は覚えてないらしく、2人に続いて下へと続く階段を下りた。

＊fin＊