虚月が浮かぶ【悲系/AN,AS】《完結》 (ページ4)

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「……何か用でも？」

守り人から発せられた言葉も、無機質で感情のカケラも無い。
それでも彼は話し出す。

「現世へ帰らせて下さい」

同時に深々と頭を下げる彼に、守り人は何も言わずただ立っている。

「やっぱり、ダメですか？」

何も喋ろうとしない守り人へ再度お願いする。
その声は微かに震えていた。
(もしも、守り人さんが承知してくれなかったら、俺は帰れない――)
そう思うだけで、彼は心底不安に狩られる。

しかし彼の心配をよそに守り人は応える。

「……解りました。貴方は現世から迷い込んだだけの生者(せいしゃ)。
貴方の世界へ返してあげます」
「あっ……ありがとうございます！」

もう一度、彼は深くお辞儀した。安心感でその肩は小刻みに……。

守り人は顔を上げた彼の瞳を見つめる。光など一切無い守り人のソレは、それでも優しさがあった。

何処からともなく風が吹いた。

バサッ――！

一瞬の旋風が巻き起こる。思わず彼が目を瞑ったその僅かな時間。
目の前にいた守り人は消え、代わりに一匹の大きな白鳥が佇んでいた。

「えっ？」

白鳥は彼を見つめ、大きく翼を広げた。

「守り人……さん？」

今の状況から考えられることは、どう足掻いても現実味の無いコト。
戸惑っている彼をあやす様に、もう一度白鳥は純白の翼を広げる。

「もしかして、ここに乗れってこと？」

しかし白鳥は何も答えず、ただ彼の瞑らな瞳を見る。
(いいのかな？)

「じゃあ……」

恐る恐る白鳥の背中に乗った。その瞬間、漆黒に純白が舞う。
その勢いに振り落とされかけた彼は、慌てて白鳥の肩に当たる部分を掴む。

薄光の上空を旋回した後、一人と一匹は暗闇の奥へと飛び出した。
何も無い、何も聴こえない闇の中を――。

＊

羽音だけが共鳴する世界。
しかし、ソコに変化があった。

彼の真上――蒼い輝きがヒトツ。ソレはとても小さく、瞬きすれば見失いそうな程だった
だがすぐに輝きは増えていった――。

何十、何万、何億もの、小さな小さな“星”達。
そして、彼の真下には銀河の中心である天の河が見えた。その上を、白鳥は彼を乗せて越える。
天の河を挟んで一際煌めくのはベガとアルタイル――織姫星と彦星だ。

「綺麗……」

なのにこの大パノラマの中で、一番目立ったのは、ソレラではない。
また、彼の瞳に映っているのもソレラではなかった。

蒼い三日月。
どんな輝きにも負けない、眩い蒼光が……。