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愛の始まりとも知らずに ページ6

取り敢えずあの後、シャワーを借りさせてもらった。というよりバスタブだったけど。なんか、屋敷にありそうって感じの。


「ラハトさん」


「ラハトだ」


「…ラハトさん」


「ラハトだ」


「…ラハト」


「それでいい。どうした?」


わざわざ席を立ってこちらにまで近づくラハトは、凄く律儀だ。同時に結構抜けてるところもあるっぽいんだけど。


「電話とかって、ある?」


「ないな。あったとしても、繋がりはしない」


「どういうこと?」


「此処は咲の知る世界じゃないからね」


更にややこしいことが増えてしまった。どうやら此処は私の知る世界じゃないらしい。まあ、最初からそんな気はしてた。電車から降りてホームが無かった瞬間から何となく察してた。


しかし、となるともう此処は異世界か。…冷静に判断してしまう自分が恐ろしい。


「心配する必要もないよ。この場所にさえいれば死ぬことも無い」


「…外出たら死ぬの?」


「氷点下だ。人間が長時間いると凍って死んでしまうよ。見てみる?」


氷点下。最初あの雪の中にいたときはそんなこと無かったのに。信憑性があるか確かめたかった。だが、見せてくれるということは実際のことなのだろう。


ラハトは裏口らしき扉を開く前に言った。


「羽根の隙間から覗くといい。身体が凍っても問題ないのなら、私の隣に立つといいよ。大丈夫、凍るだけで死んだりはしない。ちゃんと溶かしてあげる」


「…や、やめとく。翼、触るね」


どんだけ寒いんだ。それもう氷点下よりヤバイんじゃないのか。ラハトは、やっぱり、天然だ。

ラハトは嬉しそうに目を細めて扉を大きく開けた。そんなに開いたらラハトがやばいんじゃ、と思った瞬間、


「ひえッ!」


刺すような冷風。いや、これは、一周回って熱いのか?とにかく目がやられたかもしれない、と羽毛の隙間から目を離してぱちぱちと瞬く。大丈夫、見えてる。


とにかく冷風が先に来たから、外が一体どうなっているのかもわからない。勇気を奮ってもう一度見てみる。


「…なにこれ。一面、真っ白、っていうか…あ、水色も入ってる…?」


「酷い景色だ」


曇り空も無ければ、ただただ水色がかった白の世界が視界を埋め尽くす。その先がそういう空間であるかのように当たり前のようにそこにある。


「咲。死にたくないなら、外には一歩も出てはいけないよ。扉にも、手は掛けたらいけない。分かったね」


言われなくとも、外には出ない。


.

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作者名:APca | 作成日時:2017年5月20日 1時

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