milk&honey -08 ページ8
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彼女の笑顔を、ひとりじめできたなら。
どんなにいいだろう。
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俺の行っている塾は、個別方式ではなく講義スタイルで学校のように座席が固定だ。
ずっと空いていた俺の右隣の席に、最近入った女子が座るようになった。
『………今更だけど、よろしくね？』
彼女は、この塾に知り合いはいないようだった。
講義の合間の休み時間に声を掛けた。
………塾で隣の席なだけで、よろしくするようなこともきっとないだろうが。
『………よろしく』
俺は初めて彼女の顔を正面から見た。
俺が何かを話すのかと彼女は俺を見つめる。
………その、表情のまったく読めない顔で。
気づくと彼女の視線は本に戻されていた。
俺が挨拶して、彼女が応じた。ただ、それだけ。
こんなことを言うと、調子に乗っていると言われそうだが。
俺が笑って声を掛けて。
こんなあっさりとした反応をされたことなど、ほぼなかった。
なんだろう、このざわざわした感じ。
《誰にでも優しい人》を装っているヤツに思われた、か？
彼女の綺麗な目にすべて見透かされているような気がした。
それが、思い過ごしだと思いたくて。
…………彼女のことが、気になるようになった。
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彼女は理系が飛び抜けて優秀だった。
小テストのときは、隣同士で採点をする。
それのおかげで、彼女の名前を知ることができた。
今日俺が途中であきらめた最後の問題まで、しっかり解けていた。
今回もパーフェクト、とおどけるように言って。
『………山本さんって、数学すきなの？』
『うん、………すき』
少しの間のあと。
《数学》がすきだと言って微笑んだ。
はっきりと笑ったわけではなくて、
すこしだけ目尻を下げて、頬を緩めた。
《得意》ではなく《すき》というワードを使ったのは、
そのほうが適切だと思ったから。
…………そうしたら、彼女も。
ぎこちないその笑いが、容赦なく俺に突き刺さった。
《彼女の笑ったところが見てみたい》
友達とくだらない話をすこし大きめの声で話しても。
話題を変えて何度か話しかけても。
彼女の表情は変わることはなかったのに。
いざ、山本さんが笑ってくれたら、こんなにも心臓はうるさくて。
そのことばかりが頭を巡って。
そのあとは、なんも使い物にならないくらい。
俺はボコボコにされたのだった。
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作者名：345 | 作成日時：2024年2月6日 22時
