milk&honey -07 ページ7
高校2年の冬。
母に再婚を考えている、と言われたときには驚いた。
母には母の人生があるのだから、
自由にするべきだと頭ではわかっているが。
息子として一応心配してはいるので、
相手の印象くらいは一言言わせてもらおうと思っていた。
その心を知ってか知らずか。
母は早々に《そのひと》を俺に会わせてくれた。
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『由伸くん、はじめまして』
………いま、俺の目の前に現れたひとは。
髭の生えた、いわゆるダンディな男性。
いかにもモテそうな風貌と、洗練された雰囲気に圧倒される。
一瞬構えたが、話すと物腰が柔らかくて。
………まじで母に問いたい。
どこで見つけたんだ、こんなひと。
実は俳優志望で定職についていない、とかそういうんじゃないかと勝手に心配してしまったが、話を聞く限り会社員のようで。
『今度試合、観に行ってもいい?』
俺が野球部でピッチャーだと言うと、
すげえ、と目を輝かせていた。
Aさんは終始屈託なく笑うひとで。
俺は、気に入られようなんて思ってもいなかったのに。
気づくと彼に心を許してしまっていた。
歩み寄ってくれるけど、超えて欲しくないラインは超えない。適度な距離感が心地よい。
『………実は、娘がいるんだけど。会ってもらえるかな?』
『…………はい、もちろんです』
それが《親の結婚への同意》。
そう思って、俺なりに最大の歓迎の意思を示した。
Aさんがありがとう、と微笑んだ後。
少し前の写真なんだけどね、と見せてくれた写真に息を呑む。
『…………娘さんの、名前って』
『ああ、Aっていうんだ』
高校の入学式の写真。
あのとき会った《彼女》の苗字は知らない。
名前だけ、だ。
俺の記憶に刻み込まれた名前はたしかに《A》で。
名前が一緒なだけなら。
他人の可能性は十分あり得たが。
………彼女の隣に写る男は、泰輔だった。
おそらく間違いない。Aさんの娘が、《彼女》。
世間、狭すぎ。
背中に汗が流れるのを感じた。
………どんな顔して、会えばいいのか。
もし、Aが俺のことを覚えていたら。
この再会を、ふたりで笑いあえるだろうか。
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作者名:345 | 作成日時:2024年2月6日 22時