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待ち合わせしたカフェに入ると、Aちゃんはすでに席に座っていた。俺に気づいて軽く手を降り笑みを浮かべる。

「ごめん待った？」
「んーん、さっき来たよ」

手元にあるカップには半分以下になった紅茶。そんな小さなウソつかなくたっていいのに。

「…本当、この前は助かりました。ビョンベッキョン、完全体です」
「鼻声だしマスクしてるのに完全体なの？」
「まぁまぁそこはスルーで！」
「えー？」

コーヒーカップを揺らして、口をつける。
ちらりと前を見ると、同じようにティーカップを円を描くように小さく揺らしていた。

「…で、呼び出したのは他にも理由があって」
「うん…？」
「これ、あげる」

バッグからチケット二枚を出して差し出す。手にとってチケットを見つめるAちゃんは、しばらくして目だけで俺を見た。

「どうしたの？これ」
「貰ったんだけど、俺その日行けなくてさぁ」
「…そうなんだ」
「んで、この前のお礼ってことで、Aちゃんにあげる」
「えー？気にしないでいいのに」
「俺が気にするの！セフン誘ってみて」
「…セフン君？」
「あいつミュージカルとか好きだし。…多分」
「へぇ、そうなんだ…ありがとう、じゃあ誘ってみる」

ニコニコ微笑んで、チケットを財布の中にしまいこんだ。そしてさっそくセフンに連絡をする。

本当はその日何もないしセフンがミュージカル好きかどうかなんか知らない。俺はセフンのヒョンだから、後輩のお願いは聞いてやらなきゃいけない。

「行けるって！」

そう思うのに、嬉しそうに笑って「ありがとう」というAちゃんを見るのが辛くて、コーヒーに角砂糖を二個いれた。苦いのはこの気持ちだけでじゅーぶん。