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思ったより早く、Aちゃんは来てくれた。
ピンポーンと１回だけ部屋に響いて、玄関に向かう。静かに、少しだけ開けるとAちゃんがひょっこり出て来て手をちいさく振ってきた。

「お待たせー」

ニコニコしてるAちゃんを見て、マスクの下で唇を噛み締めた。

「結構辛そうだね」
「……うん…ダルい」
「もう風邪引かないでねって言ったのに…」
「…はは、そうだった。ごめんね」

この前のことか。あれは風邪じゃない。
仮病だ。
思い出したように心が痛む。

ビニール袋を２つぶら下げていて、中から小さな箱を取り出した。

「市販の薬だけど、飲まないよりマシだから」
「………」

その箱を受けとる。かぜにきく、とかかれた薬はＣＭでよく見るやつだ。

「あと、大したものないけどしっかり食べてしっかり飲んで」

そして袋２つをこっちに差し出した。受け取るとガクッと下に引っ張られる。こんなに沢山買ってきてくれたのか。

「ほんっとにありがと」
「んーん。全然。顔見れてよかった」

手が頭に伸びてきて髪をふわっと触った。
そしておでこに。一気に熱が上がった気がする。

「うわー…これはキツいね。ごめんね、もう帰るから早く寝て」

前髪を最後に整えて離れていく。

「……帰るの？」

思わず出た言葉に、Aちゃんは眉毛を下げた。

「…寂しい」

Aちゃんの手首を緩く掴んだ。
帰んないで、側にいてほしい。
風邪を引くととことん弱くなる。

「寂しいね、わかるよ」

分かるなら、

「いてあげたいけど、いてあげられない…」

俺の手をゆっくりほどいた。
Aちゃんのことだから、うんいいよって言ってくれるって思ってた。でも、今回は予想が外れた。

それはきっと俺が友達だからだ。

「ごめん。うそ。移っちゃうと悪いから」
「…………お大事にしてね」

どんどん離れていくAちゃんを玄関から見送った。
階段近くまで行ったところで振り返って、手を振ってくれた。そしてトントンと下りていった。

玄関を閉めて、ボーッとする頭をゴンと玄関に打ち付け、ドクドクする胸当たりをぎゅっと掴む。

俺のこと友達って思ってるって知ってるしきっとそれ以上の感情を抱いてくれないことも分かってる。

だけどダメだ。
俺、Aちゃんが好きだ。