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・・・
「じゃあ頑張ってきます」
笑顔で弓をぶんぶん振って、楽団員に混ざって舞台裏へと移動するお嬢様を見送り、腕時計で時間を確かめる。一緒に舞台裏へと移動して袖で見守るのは何の不思議でもないが、くるりと踵を返して裏方を後にした。
たくさんの人が会場へ吸い込まれている様子を写真に収め、定期演奏会のポスターを何となく眺めてしれっと入場列に混ざる。チケットを見せて中へ入り、二階席最後列の角に腰を下ろす。
通路側一席を開けて。
お嬢様には秘密だが、実はいつもここで公演を鑑賞している。勿論、わざわざ自腹で空席を埋めているわけではない。
パンフレットを見ながら待っていると、公演中の注意事項のアナウンスが始まり、演者が薄暗い舞台に出て来た。お嬢様は主席チェリストの位置に座り、全員が着席するまで静かに待っている。
その時、隣の席に重みを感じた。
外の冷気を纏っている。
舞台から視線を逸らさずにすっとパンフレットを渡すと、何も言わずに受け取って表紙を捲っていた。
舞台ではチューニングが行われている。終わると指揮者が入ってきて拍手が起こる。一礼した指揮者が指揮台に登壇し、指揮棒を上げると静かになるホール。
隣の席のセフンが脚を組んだ。
第２部は公演のメイン楽曲の演奏となる。長時間にも及ぶ演奏、音楽に関わる俺は苦ではないけれど、こと音楽に関してだけは不通のセフンには苦痛に近いだろうが、途中欠伸をしたりしていたものの最後まで舞台から目を逸らしはしなかった。
演奏はクライマックスを迎え、指揮者も演者も皆力を出し切る。最後の一音を奏で、指揮者が締めると、その迫力に圧倒されて静かだった会場から、パチ、パチと控えめな拍手が起こり、一気に拍手の渦となる。今日はかなりいい出来だった。立ち上がって一礼する舞台上の演者全員に拍手を送っていると、セフンがスッと立ち上がる。
「……もう帰んの？」
「うん」
「最後まで見て挨拶くらいしていきゃいいのに」
ここには誰も、お前の行動を制限する奴はいないんだから、会いに行けばいい。労る言葉でも掛けてやればいい。抱き締めても黙っておいてやるよ。
だけどセフンは手を上げ出口へと向かっていく。控えめに開けた扉の僅かな隙間から体を通し、閉まる扉と共に姿を消した。
「……キザだねぇ」
とは言え俺もそろそろ舞台裏に移動しておかないと。まさか俺がセフンとここで会ってるなんて気付かれたら、大騒ぎだ。
END
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こむ(プロフ) - 〇〇さん» まさかコメントを頂けるとは思っておらず、大変遅くなってしまいましたがこちらこそ本当にありがとうございます。こうやって感想頂けることで忘れかけていた執筆時の思い出が蘇ってより一層自分にとって大切な作品になりました。本当に嬉しいです！ありがとうございます (3月8日 19時) (
レス) id: 65eaa14bbb (このIDを非表示/違反報告)
〇〇(プロフ) - 作者の方に心の底から感謝を伝えたいです。長編になると話の筋がよれてしまったり途中で終わってしまったりしますが、無駄な話も無くしっかり伏線回収して感情移入しやすい描写を多く入れてくれて、、、プロの小説家さんだ、号泣しました。本当にありがとうございました (10月30日 0時) (レス) @page47 id: dc7d3a4bc1 (このIDを非表示/違反報告)
こむ(プロフ) - るるさん» コメントありがとうございますー！お返事遅くなってしまい申し訳ありませんTT一気読みお疲れ様でした！そしてめちゃくちゃ嬉しいお言葉を本当にありがとうございます。大変恐縮です；；私もこれを漫画で見たい気持ちでいっぱいです(≧∇≦)いつか縁がありますように…笑 (2020年3月30日 15時) (レス) id: fd99a38d2e (このIDを非表示/違反報告)
こむ(プロフ) - EXO_Unicorn1228さん» はじめまして！コメント頂いていたのにお返事遅くなってしまってすみません；；泣いてもらえるとは…！笑 11章という長さになってしまうほど描写に拘ってきて良かったなぁと思いました；；最後までお読み下さり本当にありがとうございました(*^^*)！ (2020年3月30日 15時) (レス) id: fd99a38d2e (このIDを非表示/違反報告)
こむ(プロフ) - 淡藤さん» 淡藤さま！お返事がとんでもなく遅くなってすみません；；何度も読み返してくださり本当にありがとうございます！ツンで甘いせふん、私の中でもかなりお気に入りのキャラですのでそう言っていただけて超嬉しいです(*^^*)またお見せできたらいいなぁ… (2020年3月30日 15時) (レス) id: fd99a38d2e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：こむ
| 作成日時：2019年10月9日 22時
