嘘の花束#8

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「よかった……」


恥ずかしいけどそれよりもよかったぁって安心してる。ジョンデさん海外転勤しないんだ。ジョンデさんにとっては栄転だったかもしれないけど私にしてみたら寂しい話だった。ジョンデさんは体を起こして覗き込んできて朗らかに笑った。そしてぽんぽんと頭を撫でてくる。


「俺が転勤しなくて安心したの？」
「……しました」
「あは、そんなに俺が好き？」
「…はい」
「えっ」
「好きです……」


少しの沈黙を置いたあと、ジョンデさんが場所を考えずにぎゅーっと抱き着いてきた。わぁ…っていいながら右に左に体を揺らして、子守りをするみたいに優しく包み込む。顔をあげたら、微笑んで顔を近づけてきたからぺちんと頬を叩くと『Aちゃんのこれ大好き』と嬉しそうに笑ってた。




・




また新たな恋の病の患者が、医者でもなんでもない私に悩みを打ち明けた。頬杖をつきながら、患者ではなく窓の外をぼおっと見つめた。


「かわいくてかっこよくて…男らしくて…好きにならない方が無理って言うか。でも本人は"女の子興味ない"っていうの。だから好きにならないでって…やばい…笑顔思い出しただけで胸が苦しい」
「……誰の話？」
「は？ベッキョンさんだよ！ちゃんと聞いて？」
「ふぅん。………ジョンデさんはどうなったの？」
「ジョンデさんも相変わらずだけど、なーんか雰囲気が違うんだよね。前にはなかった"マジ無理感"がひしひし感じるって言うか」
「………へぇ」
「彼女出来たっぽいんだよね〜…ずるい…てかA本当に何もなかったの？ジョンデさんと１ヶ月も海外出張して」
「ない」
「彼女の情報は？」
「知らない」


まさか言えないよ。トラブルに巻き込まれたくないもん。それからもベッキョンさんの素敵なエピソードを聞きながら、休憩室の前の廊下を歩く男二人組を見つけた。患者が何かを感じ取ったみたいで咄嗟に振り向き『わっ！ジョンデさんとベッキョンさん〜！』と色めき立つ。


ジョンデさんを目で追ってたら視線に気付いたのか私を見て、ふっと微笑んだ。患者はピクッと反応し、私を怪訝な顔で見つめる。この患者はとっても、勘が働く。


「え？今ジョンデさんこっち見て笑った？よね？」
「………」
「A？」
「知らない」






可能性1%の愛も悪くない
END

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