: ページ9
.
「伸びちゃう！借り物だからこれ！」
「じゃあ着替えてください」
「あとでね！あとで」
「今」
「あとで！」
「いーまー」
「ち、近寄ってこないで！」
「……」
「わーっ！待って！わかった！」
あまりに折れないし無言でジリジリ近づいてくるし、服が本当に伸びてしまう前に降参するとやっと引っ張るのをやめてくれた。セフンは腕部分を捲ったシャツを正しい形に戻し、脱いだジャケットを着始める。
「とはいえここで脱がれても困るのでお部屋に戻りましょう」
タイミング良く、給仕係達が明日の朝食の仕込みにやって来た。私達を見て眠そうな顔をきゅっと引き締めて頭を下げる。
「あなた方の食後の食器はお嬢様が洗ってくださいました」
「えっ…！」
セフンの一言に青ざめていく彼ら。あのお皿たちは、彼らが食事をするときに使った食器だったらしい。
「お礼を」
むしろお礼を言うのは私の方だと言うのに、セフンが言えばみんなもう一度頭を下げて口々に感謝の言葉を並べる。たったこれくらいのことで、セフンもみんなも大袈裟すぎるよ。
「いいんです、私がしたくてやったことだから！何も気にしないで？ていうかありがとう…」
「そんな…お洋服を汚してまで…」
目線はびしゃびしゃのお腹に刺さっている。いやこれは、あの、私がどんくさすぎるからであって…と言うのはどんなに子供だと思われていても小さなプライドが許さなくて、誤魔化すように笑ってキッチンをあとにした。
「なんで言うの？みんな気遣っちゃってたよ…」
早歩きをする私を気にせず長い足でスタスタ部屋へと進むセフン。…足の長さの違いでこんなにもスピードに差が出るの？
私に対して心底申し訳なさそうな表情を浮かべていた彼らを思い出しセフンにそう訴えると、歩みを止めずに前をみながら淡々と答えた。
「お嬢様はしなくていいことだからです」
「…でも出来るようになった方がいいでしょ？」
「出来るようになっても、する日は来ません」
「来るかもしれないじゃん…」
「来ません」
「じゃあ、来なくても出来ないままだったら」
「だったら俺がしますって前も言いましたよね」
部屋の前に着くと、セフンが私より先にドアノブに手をかけた。食器もまともに洗えないんですかって呆れてた人が、真逆のことを言ってる。
「俺が何でもするから、俺じゃない誰かのために成長しようとしないでください」
私の濡れたお腹をちらっと見て、ドアを開けた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 737人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
こむ(プロフ) - こたろさん» それでも世界で一番小さな戦争は起きるかもしれませんよ………（うまいこと言ったと思ってる顔）コメントありがとうございます〜(*^.^*) (2018年10月21日 23時) (
レス) id: 8ae68e1cd2 (このIDを非表示/違反報告)
こたろ - 一妻多夫制にすれば全てが解決… (2018年10月16日 23時) (レス) id: 864f9ce26b (このIDを非表示/違反報告)
こむ(プロフ) - yさん» ゴール予想！！！(笑)鋭い推理にわたくし赤面しております…が、はいともいいえとも言わないでおきます(=∵=)お、怒らないで〜！！笑 セフンと（ベク）のお話です！！笑 yさまに愛想つかされないように頑張ります！！！（毎度熱いコメントくださるyさま好きすぎますw） (2018年10月14日 10時) (レス) id: 8ae68e1cd2 (このIDを非表示/違反報告)
y(プロフ) - ゴール予想 主人公を考えると(本人はまだ気づいていないが)絶対セフンで小説展開的には絶対ベッキョン などという読ませない感じですね…なるほど……これって"セフンとの"お話ですよね？そうですよね？(疑問形での念押し)(圧)(私利私欲)(こむさん好きです！！！) (2018年10月7日 19時) (レス) id: 5337d93f99 (このIDを非表示/違反報告)
こむ(プロフ) - ジュンミさん» え〜〜！？だれが！？わたしですか？！？！？！？！？！(笑) (2018年10月6日 13時) (レス) id: 8ae68e1cd2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：こむ
| 作成日時：2018年9月4日 15時
