: ページ34
.
壁一枚向こうには見ず知らずの人がいて、もしかしたら誰かが突然扉を開けるかもしれない。ゆるゆる首を横に振り、ベッキョンの肩を押すと至近距離で目が合う。
「……それは選択肢にないはず」
「い、…いやだ、ベッキョンやめて」
「……なんで？自分から仕掛けたんじゃん」
「こ…ここはいやだぁ……」
恋人同士することは想像できるけれど、こんな薄暗くて人の目が近くにたくさんあるような場所では絶対にいやだ。初めてするなら、こんな雑音ばかりで萎びた匂いのする所じゃなくて、穏やかで大好きな人の匂いに包まれた空間がいい。
ベッキョンの目が左右に揺れ、はぁ〜って熱い息を吐き出した。おでこや鼻先にキスを落として起き上がる。寝たままの私の腕を引っ張り起こし、膝の上に乗せて背中をぽんぽんと叩いた。
「……どっちにしろ出来ないからよかった」
ブーブーとどこからか鳴る音。レジで渡されたタイマーみたいなものが時間５分前を知らせていて、ベッキョンはそれを手に取り音を消す。
「ここじゃないならいいってこと？」
私ではなく手元のタイマーを見ながら、小さく呟く。乱暴に黒髪をわさわさと撫でて最後に前髪をかきあげた。
「次はもう我慢しないでいい、ってこと？」
ベッキョンの膝の上に座っている私を上目で見て、乱れた髪をきれいに整えてくれた。その手はすごく優しくて繊細で胸が締め付けられて、一回だけ大きく頷くとさっきからずっとたまっていた涙がすっと頬を伝って落ちた。
「Aちゃんかわいい」
「かわいいね、ほんとに」
それから荷物を抱えて急ぎ足で56番の部屋を後にした。薄暗い場所から急に外へ出ると眩しくて目を瞑る。はあ、わたしたちは授業をサボってまで何をしてたんだろうって大学へ向かうたくさんの人の中に混じって恥ずかしさ故に顔を真っ赤にした。
サボった授業はあと30分後に終わる。迎えがその頃に来るから食堂かどこかで過ごそうってベッキョンに言われて手を差し出される。大学までの短い道を、今日車から見てた人たちみたいに笑いながら歩けるんだって嬉しくて手を重ねてぎゅっと握った。
もう目の前に大学の校門が見える。横断歩道が青になるのを待っていたら目の前をすっと黒塗りの高級車が通りハザードランプをつけ徐行しながら路肩の駐車スペースに停車した。
見慣れた車から目が離せず、後部座席のドアが開いたその一瞬ですっと血の気が引いて、咄嗟に繋いでいた手を振りほどいた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 737人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「K-POP」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
こむ(プロフ) - こたろさん» それでも世界で一番小さな戦争は起きるかもしれませんよ………（うまいこと言ったと思ってる顔）コメントありがとうございます〜(*^.^*) (2018年10月21日 23時) (
レス) id: 8ae68e1cd2 (このIDを非表示/違反報告)
こたろ - 一妻多夫制にすれば全てが解決… (2018年10月16日 23時) (レス) id: 864f9ce26b (このIDを非表示/違反報告)
こむ(プロフ) - yさん» ゴール予想！！！(笑)鋭い推理にわたくし赤面しております…が、はいともいいえとも言わないでおきます(=∵=)お、怒らないで〜！！笑 セフンと（ベク）のお話です！！笑 yさまに愛想つかされないように頑張ります！！！（毎度熱いコメントくださるyさま好きすぎますw） (2018年10月14日 10時) (レス) id: 8ae68e1cd2 (このIDを非表示/違反報告)
y(プロフ) - ゴール予想 主人公を考えると(本人はまだ気づいていないが)絶対セフンで小説展開的には絶対ベッキョン などという読ませない感じですね…なるほど……これって"セフンとの"お話ですよね？そうですよね？(疑問形での念押し)(圧)(私利私欲)(こむさん好きです！！！) (2018年10月7日 19時) (レス) id: 5337d93f99 (このIDを非表示/違反報告)
こむ(プロフ) - ジュンミさん» え〜〜！？だれが！？わたしですか？！？！？！？！？！(笑) (2018年10月6日 13時) (レス) id: 8ae68e1cd2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：こむ
| 作成日時：2018年9月4日 15時
