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夕暮れ時、境内を掃除していると聞こえる塀をよじ登る音。
その主を、野良猫かと思って目をやれば大抵が弟だった。
「優斗」
毎回毎回懲りもせず、見つかったという顔をする。
「だーもう疲れてんだって！見逃して姉ちゃん！」
「いい加減バチが当たるよ」
「それっぽいこと言うなよなぁ」
歴史の長さと敷地の広さだけはありすぎるほどにあるこの神社を、ぐるりと取り囲んでいる蕃塀。
船着場から家までは確かにこの塀を越えて行った方が早く、部活を終え疲れきって帰ってくる優斗はこうしていつもずるをする。
優斗の言う"それっぽいこと"というのはきっと、"神社の人間の言うようなこと"ということだ。
けれど、私が家業である神社の人間らしいことを言うのは仕方がないし、同時に、弟の優斗にはそれが分からないのもまた仕方のないことだった。
私たち姉弟は未来が別々に用意されている。
家を継ぐ私と、外に出て行く優斗。
「洗濯物！ちゃんと出しといてね！」
返事代わりに背を向けたまま手を振って、塀の向こう側、エナメルバッグが地面に落ちる音がした。
優斗には、島の外に出て行くだけの能力と望まれた先があった。
幼い頃から頑張っていた野球の実力は確かなもので、この夏休み前には県外の甲子園優勝常連校から特待生入学での声がかかっていた。こんな辺鄙な場所にある島まで訪ねて来てくださった学校関係者の方は、そこで練習を積めば将来プロだって夢じゃないとそう言った。
私の、自慢の弟。
それは父と母にとってもそうで、私たち二人には種類のちがった期待がかけられていた。
私に望まれていることは、この家を守ることだ。
そこに疑問を抱いたことはなかった。
千年以上続くこの神社を私の代で絶やすなんて考えたこともないし、その役目を長女の私が、他の才能に恵まれた優斗ではなく、島から近いというだけの普通の高校に通う私が担うのは当然のことだった。
それに、そのために、私たちの家の都合に付き合ってくれるあの人だっているのだから。
小さな島と、通う高校と、神社。
その範囲で出会う人々。
父と母と弟。
それから、勇太くん。
狭くて小さな世界が私のすべてで、
けれど私はそれらのことをちゃんと好きだった。
だから、今朝あの封筒を投函したのなんて本当に、ほんの少しの出来心と、ただの好奇心によるもので。
それ以上の意味も期待も、そこに託すこと自体が間違いだってそう分かっていた。
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こむぎ(プロフ) - sarusukiさん» 2はフラグが立ってるので、問題ないようであればご自身で設定をお願いします！ (2018年6月17日 18時) (
レス) id: c18b3d0fe1 (このIDを非表示/違反報告)
sarusuki(プロフ) - パート2の方が見られなくなってしまいました！！見られるようになりませんか？涙 (2018年6月17日 17時) (レス) id: bd649719ef (このIDを非表示/違反報告)
こむぎ(プロフ) - 湊さん» ありがとうございます！この話は書きたい描写が多すぎるので、できるだけくどくならないように気をつけたいと思ってました…！多分まだまだ続くのでこれからもお付き合い頂けると嬉しいです〜！ (2018年5月20日 16時) (レス) id: ae12cda8c1 (このIDを非表示/違反報告)
湊(プロフ) - こむぎさんの書くお話大好きです！！諄くない、綺麗な文章を書く方だなぁ、といつも思ってます。これからも更新楽しみにしてます！ (2018年5月17日 13時) (レス) id: 5d99fecd0e (このIDを非表示/違反報告)
こむぎ(プロフ) - ゆりーるさん» わーいありがとうございます！3人のもともとの強すぎる個性を殺さないようにキャラ作れたらなぁと思ってるのでそう言って頂けてめちゃくちゃ嬉しいです〜！これからもよろしくおねがいします！ (2018年3月3日 15時) (レス) id: 599e963edf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：こむぎ
| 作成日時：2018年1月3日 11時
