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*
「いい子だね。海人はやっぱりいい子だ」
何だ、これ。
何なんだ、一体。
歩いて行った先、弟がソファの上のその男の腕の中に自ら収まる。
何も纏っていない上半身を男の手が這い回る。
弟は何も感じない、人形のような目をしてただそれに耐えていた。
里親からの虐待。
自分には無縁だったけれど、聞いたことがある。
夫婦と姉弟と、四人でいるときの様子からは到底考えられなかった。
あいつはずっと、こんな目に遭っていたのか？
頭の中が真っ白で何も考えられない。
震える指先で、警察に電話をかけた。
誰か、誰か来てくれ。早く。
犯罪者の自分ではどうすることもできない。
けれどそれを待っている間にも、男の行為はエスカレートしていく。
男の色情に満ちた目に吐き気が込み上げる。
弟の歪んだ顔から一粒涙が零れるのを見て、俺のせいでAを泣かせた時のことを思い出した。
耐え切れなかった。
窓から家の中に入ってその男を突き飛ばすと、弟の腕を掴んで走り出した。
訳も分からないまま連れられて走る弟。
俺だって訳が分からず、必死だった。
交番を見つけて、その前で弟の肩を掴んだ。
「行ってくれ、お願いだ。頼むから、」
戸惑いの表情を浮かべ、俺を見上げる。
「お前は俺のことを、恨むかもしれないけれど、でも、お願いだから」
長い間誰にも言わずに黙っていたのは、耐えていたのは、姉と自分のためにそうしていなければという、こいつなりの意地と考えがあったはずだ。
だけど、そうだとしても。
こんな事あっていいはずがない。
弟の目から堪えていた涙がぼろぼろと溢れた。
小さく一つ頷くと、ゆっくりとその交番に向かっていった。
後姿を見送ると、
俺は両の手で自分の顔を覆って、その場に蹲る。
自分のしたことはきっと間違いではない。
ただ、ときどき分からなくなる。
このことがきっと君に、長くて重い呪いをかけたのだ。
自分をいくら犠牲にしても、弟のために生きなければならないという、呪い。
*
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こむぎ(プロフ) - ひだぴよさん» 一番だなんて、ただただ嬉しいです…！ありがとうございます！読み返して頂けているということも、とてもとても幸せなことだなぁと思ってます。すっごくモチベーションあがりました！これからも書き続けるので、お付き合い下さると嬉しいです〜！ (2017年9月5日 0時) (
レス) id: ee18da60f7 (このIDを非表示/違反報告)
ひだぴよ(プロフ) - はじめましてコメント失礼します！私が読んだことある作品の中で一番このお話が大好きです！更新されていなくても何回読んでも飽きないので読み返したり更新された時はドキドキしながら読ませてもらっています！これからも頑張ってください！ (2017年9月4日 0時) (レス) id: c4715235be (このIDを非表示/違反報告)
こむぎ(プロフ) - aさん» えーありがとうございます！ここにはたくさん素敵なお話があるので、私などの話で初めて感想を書こうと思って下さったということ、本当に嬉しすぎます…！喜ばせ上手ですね…惚れそうです… これからも楽しみにしていただけるようなものが書けるよう頑張ります〜！ (2017年8月22日 1時) (レス) id: 575451942f (このIDを非表示/違反報告)
a(プロフ) - なんといったらいいのでしょうか…それはそれはもう本当に素敵なお話で胸がいっぱいになります。ここに感想を書こうと思ったのも初めてでそれくらい感銘を受けました。これからも更新を心から楽しみにしております！ (2017年8月21日 7時) (レス) id: 1755795bcf (このIDを非表示/違反報告)
こむぎ(プロフ) - みうさん» ありがとうございます！私の選んだ一つ一つの言葉で色んなことを考えて頂けてるなんて、すごく嬉しいです…私こそみうさんからのコメントにテンションがあがりました！ そんな風に言っていただけるのなら大変な気持ちなんて全くないです〜これからも頑張ります！ (2017年8月21日 1時) (レス) id: 575451942f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：こむぎ
| 作成日時：2017年7月9日 14時
