83 ページ35
*
「…それは、弟、だけなん」
「男の方の里親がね、そういう嗜好の変態やったから。…里親里子間ではまぁ、ないこともない。目に見えるところに外傷が残るわけではないし、彼女の方はただ純粋に可愛がられとったから、数年間何も知らんかった」
「……そんな、」
「それで14の時に二人で家を出て、そっからは弟のために生きてる。あの子高校の成績も良くて、大学も行けるはずやった。ただ自分一人なら奨学金もらいながらなんとかできるかもしれんけど、その四年後に弟まで大学にやるのは無理やから、諦めた。…多分やけど、生活が苦しくなったがために弟が『やっぱりあの家を出なければよかった』なんて思うことないようにって、必死に金を稼いでる」
「っ、でもそんなん、Aさんのせいやないやん…！」
「…誰のせいとか、そういうことやないよ。ただ、弟の虐待に気づかんかった自分を責めてる。ずっと。あの子は、そういう呪いにかかってるんだ」
押し寄せる波のように入って来た情報を、頭の中でうまく整理できない。
考えもしなかった。
彼女の過去。
彼女と、�盒恭た佑硫甬遏�
渇いた喉が焼け付くように痛み、自分の呼吸の音だけが頭の中に響き渡る。
「ねぇ。君が知りたかったのってあの子のこういう、やむを得ない事情やろ？…満足した？それで、君に何かできることがある？」
畳み掛けるような問いかけに言葉を失う。
男は終始、感情のひとつも込もらない声と表情でそこにいた。
視線は依然として、店内にいるAさんに向けられている。
「そんなのないから、何にも。勘違いせん方がいいよ」
どうしてこの男にそんなことまでが分かるのだろう、と思った。
だけど、それは確かだった。
Aさんのやっていることが仕方のないことだと思えるような事情を、理由を、自分は求めていた。
「……じゃあ、あんたには何か出来ることがあんのか」
精一杯に絞り出した言葉に、男は一瞥しガードレールから腰を上げる。
俺の帰る先とは反対方向に歩き出し、数歩進んだところで立ち止まった。
「ないよ。何もない」
「…Aさんに、用じゃないん」
「いや、ちがう。いいんだ、もう」
背中を向けたままそう言って、再び足を進めた。
去り際に、ただの癖みたいなものだから、とそう呟くように残して。
しばらくの間、俺はそこに立ち尽くしていた。
*
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1885人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「平野紫耀」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
こむぎ(プロフ) - ひだぴよさん» 一番だなんて、ただただ嬉しいです…！ありがとうございます！読み返して頂けているということも、とてもとても幸せなことだなぁと思ってます。すっごくモチベーションあがりました！これからも書き続けるので、お付き合い下さると嬉しいです〜！ (2017年9月5日 0時) (
レス) id: ee18da60f7 (このIDを非表示/違反報告)
ひだぴよ(プロフ) - はじめましてコメント失礼します！私が読んだことある作品の中で一番このお話が大好きです！更新されていなくても何回読んでも飽きないので読み返したり更新された時はドキドキしながら読ませてもらっています！これからも頑張ってください！ (2017年9月4日 0時) (レス) id: c4715235be (このIDを非表示/違反報告)
こむぎ(プロフ) - aさん» えーありがとうございます！ここにはたくさん素敵なお話があるので、私などの話で初めて感想を書こうと思って下さったということ、本当に嬉しすぎます…！喜ばせ上手ですね…惚れそうです… これからも楽しみにしていただけるようなものが書けるよう頑張ります〜！ (2017年8月22日 1時) (レス) id: 575451942f (このIDを非表示/違反報告)
a(プロフ) - なんといったらいいのでしょうか…それはそれはもう本当に素敵なお話で胸がいっぱいになります。ここに感想を書こうと思ったのも初めてでそれくらい感銘を受けました。これからも更新を心から楽しみにしております！ (2017年8月21日 7時) (レス) id: 1755795bcf (このIDを非表示/違反報告)
こむぎ(プロフ) - みうさん» ありがとうございます！私の選んだ一つ一つの言葉で色んなことを考えて頂けてるなんて、すごく嬉しいです…私こそみうさんからのコメントにテンションがあがりました！ そんな風に言っていただけるのなら大変な気持ちなんて全くないです〜これからも頑張ります！ (2017年8月21日 1時) (レス) id: 575451942f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：こむぎ
| 作成日時：2017年7月9日 14時
