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*
二人であの家を出た日。
夕陽の差し込む電車の中で二人同じように揺られながら、きつく弟の手を握っていた。
時折不安げに私を見上げる弟に、私は、大丈夫だと言った。できうる限りの笑顔を保って、大丈夫だと。何度も、何度も。
両親の事故の時の保険金もあるし、国からの助成金もある。
そんな話があてにならないことに、いつからあの子は気づいていたんだろうか。
中学生の弟が、隠し事をした。
三年時にある修学旅行。
私に内緒で欠席の手続きを取っていた。
それは、人生で一番最初に強く味わった、惨めな気持ちだった。
欲しいものが買えなくて我慢した時にも、同級生と同じように遊べなかった時にも感じたことのない、遣る瀬なさ。
すぐに弟の担任に頭を下げ、未払いだった積立金を一括で工面したら、予定になかったその出費は学費や光熱費の支払いと重なって生活を苦しめた。
けれどだからと言って、目に見えるところを切り詰めては海人に要らぬ心配をさせることになる。それには、私が耐えられない。
取り急ぎお金が必要だった。
バイト先の店長に給料の前借りを相談したけれど、心苦しい様子で無理だと断られた。お金を貸してくれる人のあてなんてない。
自分はなんて無力なんだろうと思った。
悔しかった。
そんなときだ。
優しい人に声をかけられた。
本当に優しい人だった。
私のような何の秀でたものもないただの小娘に、たった2時間で7万円も下さるというのだ。
17の冬、初めて身体を売った。
30代後半の、普通の会社員の男性。
おかしなことも要求せず、紳士的で、私が初めてだと言うと最後まで優しくしてくれた。
けれど罪悪感があったのだろうか。
制服のブラウスに手を掛けるその時になって、好きな人はいないのか、と聞かれた。
そこで初めて、あぁそうか、これは好きな人とすることだよなぁ、と思ったのだ。
私は好きでもない人と、それができてしまった。
身を引きちぎられるような辛さを感じることもなく、手放した純情に後悔の涙を流すこともなく。
そんなことよりも、私たち姉弟二人が人並みの暮らしを送れないことの方が何倍も怖かった。
生活費ができたことはただただ嬉しかった。
だから私は、恋ができないと思った。
いつからだろう。
けれど、もっと昔は確かに信じていた気がするのだ。
自分だけを救い出してくれる王子様を。
記憶の中の男の子。
名前もわからない。
幼い頃に感じた、ときめきのような、何か。
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こむぎ(プロフ) - ひだぴよさん» 一番だなんて、ただただ嬉しいです…！ありがとうございます！読み返して頂けているということも、とてもとても幸せなことだなぁと思ってます。すっごくモチベーションあがりました！これからも書き続けるので、お付き合い下さると嬉しいです〜！ (2017年9月5日 0時) (
レス) id: ee18da60f7 (このIDを非表示/違反報告)
ひだぴよ(プロフ) - はじめましてコメント失礼します！私が読んだことある作品の中で一番このお話が大好きです！更新されていなくても何回読んでも飽きないので読み返したり更新された時はドキドキしながら読ませてもらっています！これからも頑張ってください！ (2017年9月4日 0時) (レス) id: c4715235be (このIDを非表示/違反報告)
こむぎ(プロフ) - aさん» えーありがとうございます！ここにはたくさん素敵なお話があるので、私などの話で初めて感想を書こうと思って下さったということ、本当に嬉しすぎます…！喜ばせ上手ですね…惚れそうです… これからも楽しみにしていただけるようなものが書けるよう頑張ります〜！ (2017年8月22日 1時) (レス) id: 575451942f (このIDを非表示/違反報告)
a(プロフ) - なんといったらいいのでしょうか…それはそれはもう本当に素敵なお話で胸がいっぱいになります。ここに感想を書こうと思ったのも初めてでそれくらい感銘を受けました。これからも更新を心から楽しみにしております！ (2017年8月21日 7時) (レス) id: 1755795bcf (このIDを非表示/違反報告)
こむぎ(プロフ) - みうさん» ありがとうございます！私の選んだ一つ一つの言葉で色んなことを考えて頂けてるなんて、すごく嬉しいです…私こそみうさんからのコメントにテンションがあがりました！ そんな風に言っていただけるのなら大変な気持ちなんて全くないです〜これからも頑張ります！ (2017年8月21日 1時) (レス) id: 575451942f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：こむぎ
| 作成日時：2017年7月9日 14時
