寝ない子 篇 −20歳と9歳− ページ8
.
こたつに入ったまま、テレビを見ながらうつらうつらとしている。「風邪ひくから布団に行きなさい」とそう注意すれば、「うーん」とぼんやりした返事が返ってくる。
「今日たくさん遊んだから眠いだろ」
「うんー…でも見てる」
リモコンをとってテレビを消そうとすれば、Aはぱっちりと目を開き意地で画面に食い入る。
その中には俺がいた。毎週日曜の深夜に放送されるドラマを録画して、次の日の晩に二人で見る。録画なんだからいつでも見れるというのにこの習慣をAは欠かさない。
Aが俺の演技らしい演技を見るのはこの作品が初めてだった。その前に出演させてもらった恋愛ドラマはちょっとまだ早い気がして見せていない。何よりも俺が死んでしまうシーンを見せるのが今のAにはあんまりよくないと思った。
「どえすってなに?」
劇中での俺の役を指して言われるそれ。
いや、これはこれでまだ早かったのかもしれない。思えば色々と際どい単語が潜んでいる。
「えーと、あー……サイコーにかっこいいってこと」
「ふうん」
「かっこいいか?」
「うーんおもしろい」
「なんだよ 笑」
どこまで話の意味が理解できているのかは知らないが、笑えるシーンではちゃんと笑う。けれどそうでない真面目なシーンでも笑う。俺がちょっとクールな役でかっこつけているのがおかしいらしい。ガチャガチャってやつをやってやるとその度に手を叩いて喜んだ。
「今日たのしかったぁ」
微睡みに耐えながらのふにゃふにゃ声。
月曜祝日。Aの学校が休みの日と俺の丸一日オフとが珍しく重なってテーマパークに出かけた。一日中はしゃぎ倒して、なんなら前の晩から楽しみにしすぎて夜更かししていたものだからそりゃあ眠いだろうと思う。俺もかなり疲れた。自分のことをおっさんとは思わないけれどやっぱり小学生の体力には適わない。
「楽しかったなぁ」
「つぎはいつ行く?」
今日行ったばかりなのに、と笑った。一日中楽しい、楽しいと言い続けていたけれど本当に楽しかったらしい。嬉しく思いながらそのあまりの喜びようには、日頃どこへも連れて行ってやれてないことを思って少し胸が痛んだ。Aは頭がいい。子どもながらに俺の仕事や立場というものを何となく理解して、普段からそれを妨げるようなわがままは言わなかった。たった一日のテーマパークでこれほど喜んでくれるのなら、もうちょっと頑張んなきゃだなぁと思う。
.
1135人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
りんこ(プロフ) - いつも楽しく読ませて頂いています!これからも楽しみにしています。 (2019年9月30日 0時) (レス) id: 2bc4477fb2 (このIDを非表示/違反報告)
ななみ(プロフ) - 急といえば急だけど、当然といえば当然な感情な感じです。だって、岸君がずっと側で、愛情たっぷりで、まっすぐで…思春期な女子じゃなくても…なりますよね。益々目が離せません!更新楽しみにお待ちしています。 (2019年9月18日 21時) (レス) id: 6b92244ddf (このIDを非表示/違反報告)
ゆっちゃん(プロフ) - 優太くん目線で楽しませて頂いています。2人が幸せになれる事を祈っています。更新頑張ってください。 (2019年9月16日 22時) (レス) id: 8464dfffe9 (このIDを非表示/違反報告)
みづきてぃー(プロフ) - このシリーズ大好きです!!たまに出てくるじんくんも好きです(笑)もどかしくて、キュンキュンする!続きが楽しみです! (2019年8月16日 2時) (レス) id: 3752f8da94 (このIDを非表示/違反報告)
すばる - すごく好きな展開です!表現力がありお話の雰囲気に一気に引き込まれました。この先二人がどうなっていくのかとても楽しみです。 (2019年8月13日 17時) (レス) id: 62d9628bcb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:こむぎ | 作成日時:2019年7月16日 18時