思春期 篇 1−28歳と17歳− ページ36
.
リビングに置きっぱなしの携帯が鳴っていた。
別に見ようという気持ちなんてなかったけれど、テーブルの上、画面が表になってるもんだから普通に目に入る。
「……」
表示された登録名に知らない名前だな、と思う。
だからどうというわけでもないし、そもそもAの交友関係の全てを俺が把握しているわけじゃないけれど。うん。だからどうというわけでもない。
「電話鳴ってたぜ」
風呂から上がってきて、髪を乾かすよりも先に冷蔵庫の中を物色している背中に向かって声をかけた。サイダーをコップに注ぎながら、んーと気の抜けた返事を返す。
「優斗くんから」
一瞬にして固まった。
すぐに左手のコップを置いてリビングへやってくると、ものすごい勢いでテーブルの上の携帯を取りものすごい勢いで自分の部屋へ逃げて行く。
Aの交友関係の全てを把握してるわけではないし、別に男から電話がかかってきていたとしてだからどうというわけでもない。
ないけれど、何だ今のは。
数分後、戻ってくるとさっき注いだまま置かれていたサイダーを片手に何事もなかったかのようにソファに腰掛ける。「チャンネル変えていい？」と聞いて俺の返事は待たず、別に見ていたわけでもなかったバラエティ番組が勝手にドラマへ切り替わる。廉の出ている恋愛ドラマだった。
「…なに、誰？」
とりあえず、一応、聞いておく。それが保護者としての役目なような気がするし。Aはテレビ画面に目をむけたまま「何が？」と聞き返す。
「何がって…、電話の」
「……あぁ、�盒桐ヅ佑�ん」
�盒桐ヅ佑�ん。
いや、誰。
「同じクラスの子。今一緒に文化祭委員やってるからそのことで」
同じクラスの�盒桐ヅ佑�ん。
ただ同じクラスでただ一緒に文化祭委員をやってるだけの男子がこんな時間にわざわざ電話かけてくる必要あるか？非常識じゃないか？用件があるとして明日学校で話せばいいんじゃないか？
その辺りの疑問や小言が湧き上がり、思わず口から出そうになるけれど飲み込んだ。
『…声、聞きたくなって』
飲み込んだのに、何とも絶妙なタイミングでそんな台詞をカットインさせてきたのはテレビの中の廉だった。遠距離恋愛中らしい恋人相手に電話をかけていた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1135人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
りんこ(プロフ) - いつも楽しく読ませて頂いています！これからも楽しみにしています。 (2019年9月30日 0時) (
レス) id: 2bc4477fb2 (このIDを非表示/違反報告)
ななみ(プロフ) - 急といえば急だけど、当然といえば当然な感情な感じです。だって、岸君がずっと側で、愛情たっぷりで、まっすぐで…思春期な女子じゃなくても…なりますよね。益々目が離せません！更新楽しみにお待ちしています。 (2019年9月18日 21時) (レス) id: 6b92244ddf (このIDを非表示/違反報告)
ゆっちゃん(プロフ) - 優太くん目線で楽しませて頂いています。2人が幸せになれる事を祈っています。更新頑張ってください。 (2019年9月16日 22時) (レス) id: 8464dfffe9 (このIDを非表示/違反報告)
みづきてぃー(プロフ) - このシリーズ大好きです！！たまに出てくるじんくんも好きです（笑）もどかしくて、キュンキュンする！続きが楽しみです！ (2019年8月16日 2時) (レス) id: 3752f8da94 (このIDを非表示/違反報告)
すばる - すごく好きな展開です！表現力がありお話の雰囲気に一気に引き込まれました。この先二人がどうなっていくのかとても楽しみです。 (2019年8月13日 17時) (レス) id: 62d9628bcb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：こむぎ
| 作成日時：2019年7月16日 18時
