48 ページ48
「おかえり！」
玄関まで駆け寄って、帰ってきたAちゃんに飛びついた。
とっくに追い越した背丈。
体格もすっかり違うものになって、抱きしめるとその細さにいつも新鮮に驚く。
「わっ、何もうびっくりするー」
「なんかね、外からめっちゃ変な物音がすんの！怖かった！」
「えーもう男の子なのに何言ってんの。ほら、靴脱げないよ」
「んー」
「嫌じゃないのか」だって。
そんなの、嫌に決まってる。
唯一無二の愛を与えてくれる姉がこうして、お酒と、煙草と、たまに男の人の香水のにおいをさせて帰ってくることが、それが自分のためだということが、胸を掻き毟りたくなるほど、吐きそうになるほどに嫌で嫌でたまらない。
けれど、Aちゃんが何を考えてそうしているかなんて、そんなのもう苦しいくらいに分かっているのだ。
両親は4歳の時に死んだ。
親戚関係の疎遠だった俺たちには身寄りもなく、それから施設で暮らしたけれど、小学校に上がる頃には“良い人”たちに拾われた。
本当に、良い人たちだったのだ。
ただそこで俺が上手くやれていればよかった。
そうすれば、両親を同時に亡くした可哀そうな子どもたちに、“普通の幸せ”を掴ませるだけの環境を用意してくれるはずだったんだから。
姉の未来を奪ったのは自分だ。
彼女はまだ14歳で、俺は10歳だった。
それから俺たちは、長い長い我慢をしている。
可哀そうな子どもではない、“普通”になるために。
Aちゃんは、俺の分まで何倍も。ずっと。
「ふふ、ほら海人？もう離れてよ…、困ったなぁ」
だから、医者になりたい。
できるだけ早く、確実に、最上級に社会的地位の高いものになって、姉の費やしてくれた数年間を肯定できる誇らしい存在にならなければならない。
Aちゃんを守れるのは、世界でただ一人、俺だけだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1837人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
rin(プロフ) - こっそりTwitterもフォローさせてもらっており、お話を楽しませてもらっております。いつもありがとうございます。 (2018年11月27日 22時) (
レス) id: 33ae3a68db (このIDを非表示/違反報告)
rin(プロフ) - こんにちは。初めてコメントさせていただきます。斜陽を読み返してこれで4度目くらいになります。初めてお話を目にしたときの衝撃はさながら、いつお読みしても胸を熱くさせ、心を揺さぶる、素敵なお話だなあと思いました。言葉選びや描写がとても好きです。 (2018年11月27日 22時) (レス) id: 33ae3a68db (このIDを非表示/違反報告)
こむぎ(プロフ) - おりかさん» 最後につながるつもりで書いてたのしっかりバレててお恥ずかしいですが、拾って下さり嬉しいです！たくさん感想下さり、本当に励みになっていました！最後までお付き合い頂き、ありがとうございました〜！ (2018年3月3日 15時) (レス) id: 599e963edf (このIDを非表示/違反報告)
おりか(プロフ) - こむぎさん» 完結おめでとうございます。王子様のキスで魔法が解けなかったと思い込んだ紫耀くんのシーンで号泣し、ラストは王子様になれるから泣くな！これは伏線だ！と言い聞かせてた頃が懐かしいです。ニヤニヤしながら泣きました。ロマンチック紫耀くんありがとうございます！ (2018年2月6日 4時) (レス) id: 4751ebaf72 (このIDを非表示/違反報告)
こむぎ(プロフ) - おりかさん» えー控えないでください〜！毎回嬉しくてにまにましてます！作者としてもようやく二人の関係を進展をさせるので少しどきどきしながらアップしたのですが、反応いただけてとっても嬉しかったです！ムズキュンつくれてたらいいなぁ…引き続きよろしくおねがいします〜！ (2017年11月3日 20時) (レス) id: 51c991b273 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：こむぎ
| 作成日時：2017年3月20日 6時
