心臓にわるいひと ページ10
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ダンスに気になるところがあるので、時間より早めに着くよう家を出た。もしかしたら練習室一番乗りかもなと考えつつドアを開けると既に先客。おや、と思いながら挨拶をする。
「おはよ〜」
「げっ。……じゃなかった。おはようございます、Aちゃん」
「京ちゃん、早いねー……ってか今、げっ、って言った？」
「言ってませーん、知りませーん」
「それは言った子のお返事だね！」
近づいて目をじっと合わせると、居心地悪いのか京ちゃんはパチパチと忙しなく瞬きをしてそっぽを向くように目を逸らす。テーブルの上に広げた手元の何かをさっとカバンに入れているし、あまりに正直なリアクションに笑ってしまう。
「なーに？ どした？ まきすけ」
「まきすけ、て……」
「かわいくない？」
いや、Aちゃんだからいいけどさ、とぼやいている。
「Aちゃんってさ、Aちゃんしか使わないあだ名？ 愛称？ すぐつけるよね」
「そう？ 威尊にも言われた」
「そうだよ」
「京ちゃんは嫌？」
「Aちゃんならいいや」
「ありがと」
困ったように笑うのが可愛いなあ、と思ったが、やっぱり気になったことを聞いておく。
「で、まきすけ。さっきの、げっ、って何？」
「何のことやら……」
「——京介」
ペチン、と音を立ててその頬を両手で挟んで無理矢理顔をこちらに向けさせる。この期に及んで往生際悪く目を逸らしているが、ニコニコと威圧的に見える笑顔を装備してもう一度名前を呼ぶ。やがて観念したようにこちらを見た。彼が犬だったら、耳と尻尾が垂れてそうだと密かに考えたが口には出さない。全身から困ってますのオーラ。
「Aちゃん……、それは反則でしょ……？」
「京介。何が、げっ、なのか。オネーサンに正直に言ってごらん」
「う…………」
京ちゃんはじいっと見つめる視線に耐えられなくなったようで、これです……、小さな声で言いながらさっきカバンに突っ込んでいた何かを出す。
「……雑誌？」
「うん」
「あ、これこの前撮ってもらったやつ。もう出たんだ」
何でそんなもの持ってるんだろうか。というか、何で隠すのだろうか。
「まきすけ〜、ここまで来たら全部ラクになっちゃおうか」
「何、その言い方、めちゃくちゃ怖い」
「この際だし、オネーサンに洗いざらいしちゃおっか」
「ほんとに怖い！ 言う！ 言います！！ ……でもAちゃん怒らない？」
「それは時と場合による」
「だよねぇ……」
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作者名：co | 作成日時：2023年11月28日 1時
