隣にある熱 ページ48
.
「やだ……やだ……ほんと行くの？ いやすぎるんですけど」
「今日のAちゃん完全5歳児やん」
「駄々こねても無駄だぞー」
「雄大って怖がり？」
「どうやろなあ、本格的なお化け屋敷はじめてやし」
「ひろくんは？」
「俺はあんまり得意じゃない」
「あのね……、わたし怖いのほんとダメなのね。ヤなの」
それはもう、今の状況を見ていればわかる。今回のINIフォルダの企画の発表からAちゃんの様子はずっとおかしい。
「映画とか本とかは？」
「絶対ホラーは選ばない」
西くんの質問に対する答えは強い意思を感じさせた。
「もう、誰ですか……？ こんな企画考えたの」
普段は聞くことのない、情けない声にスタッフさんがくすくす笑っているのにAちゃんはしょんぼり肩を落とした。いつもはおろしているボブヘアをかんざしでまとめているので、ほっそりとしたうなじが見えている。落ちかかった後れ毛が相俟って頼りない印象だ。
「おうちかえる……おかあさーん……」
「ほんまに5歳児や」
待機部屋でもやっぱりAちゃんはは5歳児のままだった。うちのしっかり者のお姉ちゃんはどっかいってしまった。これ、他のチームは見られないのか。かわいいやらおかしいやらで俺の口角は上がりっぱなしである。
「だってさ！ おかしくない？ 遊園地だよ、みんなが楽しくなるための場所だよ？ それなのに怖がらせるの意味わかんない」
「それなら絶叫も同じちゃうん」
「絶叫は最終的に笑っちゃうしスカッとするもん」
「それはA基準」
「Aちゃん言っとることが完全に駄々っ子なんよ」
口こそ達者にしているが、彼女の顔は能面のように強張って真っ白だ。
「まあ、大丈夫やで。どうせ作りものやし。ね？」
「怖くても走るのナシな」
「……リタイアは？」
俺も西くんも腕でバツを作ってみせると、ううう……と呻いている。
「絶対置いていかないでね」
「もしはぐれたらどうするん？」
「……そのときはゆうだいのこと、きらいになる」
「Aちゃんに嫌われるのイヤやから気をつけるわ。置いてくなら西くんにしとく」
「……俺も置いてかれたら嫌いになるぞ？」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 445人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：co | 作成日時：2023年11月28日 1時
