いたいのいたいのとんでいけ ページ37
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ひそやかに、気遣わしげに。やさしい空気が漂っている。ソファには眉間にキュッと皺を寄せて目を瞑っているひと。眠ろうと努力しているようだが、そううまくはいかないで、たまに小さくうーん……、と唸っている。
「……いたい」
「まだ効かないかあ」
Aは頭痛持ちだ。痛くなり始めると鎮痛剤は必須で、効果が現れるまでは毎回しんどそうにしている。
「うーーー……ごめん、柾哉くん。いつものだし気にしないで自分のことしてて」
「……もしかして俺邪魔だった？ いるとA寝れない感じ？」
目も開けられないのだろう、酷い時は光が目に入ると辛いらしい。
「ううん、……あのね。隣いてくれると安心する……」
「じゃあいるね」
「……うん、」
光をなるべく感知しないようにするためか腕を使って目を覆うようにしているので、反対側の手を握る。目を開かなくても、いっしょにいるよ、と伝わればいい。ほっそりとした指にゆるく握り返される。普段はパーソナルスペースが広めで、(カメラがあるところでは特に)自らスキンシップを取ることの少ない彼女なので、それだけ弱っているのだろう。
「…………ねえ、これずっと思ってるんだけど」
「なに？ どうかした？」
「痛い部分だけパカっ！ って取り外せたらいいのにね」
「うん？」
「で、痛くなくなったら元に戻す」
「ずいぶん斬新なアイデアだなー」
「そう？ 花粉症とかいいと思うけど。ポン！ って眼球外して、きれいに洗ってまた戻すの」
「コンタクトみたいに？」
そう、と頷きながらAはのろのろと身体を起こし始める。必要ないかもしれないけど支えるために背中に手を添えた。細身の華奢な身体は洋服越しに背骨の感触がする。
「絶対スッキリするでしょ」
「それはまあ、確かに……？」
まだ眉間にはシワが寄っているが、軽口を叩く程度には調子は回復傾向のようだ。
「どう？ お薬効いた？」
「うん、効き始めたみたい。毎度ごめんね」
「体質もあるだろうから、気にしなくていいよ」
「寝不足ダメなんだよねえ……、あと気圧？」
「これから雨降るらしいから」
「センサー感度良すぎじゃない？」
「お天気お姉さんできるじゃん」
「お仕事来るかな？」
「来たらいいねえ」
背中や首あたりをさすると楽になるのか表情が緩むので、そのまま肩を揉んでやる。
「こんなお天気お姉さんが朝のニュース出てたら、俺毎日早起きしちゃう」
「時々外すよ？」
「それでも見ちゃうね」
ふふ、と笑う元気が出てきて何より。
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作者名：co | 作成日時：2023年11月28日 1時
