無防備 ページ26
.
インターホンを鳴らし、少しの間の後ドアが開いた。出てきた顔にぎょっとする。
「……え、泣いて……、え？」
「あ、うん。ごめん、映画見てた」
俺は思わず胸を撫で下ろす。Aは自分のことでは泣けないのに、どういうわけか本や映画ではぽろぽろ泣く。焦っている俺とは対照的に、彼女は頬を手で拭いながら、ごめんねーびっくりさせたよねーとケロリとしていた。涙を払うように長い睫毛が瞬くと、またはらはらと雫が溢れる。
「映画途中でしょ、ごめん。俺出直そうか？」
「いいよ、いいよ。たじ何か用があったんでしょ？」
「あ、うん。これ、借りてた本。返しにきたのと、続きある？ 面白かった」
「うん、あるよー。ちょっと待ってて」
玄関先も何だし入ってくれば？ のお言葉に甘えて室内に入ろうとしたところで、あ！ と声がかかった。
「将吾、何してるの？」
訝しげな顔でフェンファンが立っている。ドアノブに手をかけてる俺を見て、そこAの部屋でしょ？ と言う手にはエコバッグがあった。買い出し帰りだろうか。
「たじ〜？ いつまで玄関いるの？」
俺が入らないのを不審に思ったAが戻ってきた。目も鼻もまだほんのり赤いし、頬には涙の跡がくっきりしている。その声に中を覗いたフェンファンは、
「……！！！ A、泣いたの？ もしかして将吾に泣かされた！？」
酷く焦っていた。
「フェンちゃん、」
「えっ、ケンカでもした……？ 将吾になんか言われた？」
「俺完全に悪役やん」
「フェンちゃん、違うんだよー。わたし映画観てる途中だったの」
「ああ……そっか。安心した。別にふたりがなにかあった訳じゃないのか」
「いやフェンファン。俺の扱いどうなの？」
「将吾ごめん。でもA泣いてたら焦るよ。だってAだよ？ この、泣かない子がだよ？ なんかあったと思うじゃん」
フェンファンの様子にAは苦笑している。
「昔から、物語に没頭すると涙腺緩むんだよねえ……」
「でも自分のことではA泣かないでしょ」
笑って、さあね、と流していた。俺たちの知らない何処かで泣いているのだろうか。きっと彼女は語らないだろうけど。
「フェンファンは買い物帰り？」
「そう。そしたら将吾がAの部屋の前いるから声かけてみた。なにしてるの？」
.
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 445人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：co | 作成日時：2023年11月28日 1時
