. ページ23
.
「ずいぶんラブラブやん」
「いいでしょー？」
「迅。ほんと歩きにくいからそろそろ勘弁して」
「えー、あったかいし。このままでよくない？ Aちゃん寒がりでしょ」
「スーツ着込んでるから今は寒くないんだよなー。そうだ。誰かにくっつきたいんなら、理人はどう？」
「え、やだ」
「俺もやだよ」
即座に返された。
「Aちゃんがいいに決まってるじゃん」
「そうだよ、Aちゃんわかってないなあ」
そんなこと言われても。大人が集まってなにをやっているのか。わたしなんて四捨五入したら三十路なんだけど。こめかみあたりがズキズキしてくる気がする。眉間にシワが寄る。
「ね、ね、りーくん！ Aちゃん自分でネクタイできるようになってた！」
「おー！ すごいやん！ じゃあ今日は自分で結んだんだ？」
「いや、俺がやった」
「自分でやったらバランス悪くて。結局迅に手伝ってもらったの。で、この体勢なんだけど……」
理人はなるほどと頷いた後、パッと顔を輝かせた。
「……なに？」
眉を顰めて一応問う。
「Aちゃんネクタイ結べるようになったんでしょ。じゃあ俺の、」
「結びません、結べません。理人のちゃんと綺麗にできてるもん」
「大丈夫、大丈夫。練習あるのみよ」
何が大丈夫なんだろう。
「ネクタイビギナーに他人様のを結ぶなんて器用な真似できるわけないでしょ」
「だったら迅方式でいいよ」
「………………そんな顔してもやりません」
理人も迅も、わたしが歳下に強く出られないのをよくわかっている。かわいい、の気持ちが先に立ってどうにも甘やかしたくなるのだ。
それでもお断りの姿勢を崩さないでいると、ケチ〜、と口先ではいいつつも理人は引き際を弁えている。わたしを本格的に困らせることはない。もうひとりの弟もそうだ。彼もその辺りの見極めがうまい。
「は〜、Aちゃん充電した」
わたしを回していた腕から解放すると、ケロリと宣った。これでしばらくは大丈夫かな。
「充電ってなに……」
「充電は充電だよ。充たされたよね、心が」
「おー、迅よかったなあ」
「オネーサンは君たちが時々わからんよ……」
支度が全部整って、もうすぐ撮影が開始される。所定の位置についたとき、隣の迅がそっと囁きかけてきた。
「俺、今度は向かい合ったままでネクタイできるよう練習しとくからさ。また結ばせてね」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 445人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：co | 作成日時：2023年11月28日 1時
