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どうするのか眺めていたら、不意に洸人はAちゃんの名前を呼んだ。
「なーに？」
振り返ったところを右手の親指と人差し指でほっぺたを挟まれ、ムニムニされながらAちゃんは目を大きく開いている。
「…………ひろくん？」
そしてやさしくハグをして、二回ほど背中を軽くポンポン叩いてから洸人はAちゃんを解放した。
「はい、気合い注入」
Aちゃんは思わずと言った様子で笑い出し、それが落ち着くと憑き物が落ちたかのように凪いだ目をしている。さっきまでの『ちょっとだけ怖いAちゃん』とは別人みたいに思える穏やかさだった。集中はしているけれど、近寄り難さはない。うちの神兄貴はやっぱり神兄貴だった。なぜか少しだけ悔しい。
「理人はいいの？」
「何が」
じっと観察していたのに気づいたのかそうじゃないのか、Aちゃんはこちらに声をかけてくる。
「ひろくんに気合い入れてもらわなくていいの？」
「Aちゃん方式なら」
「えー」
「何でそんな洸人嫌そうな顔しとんの」
「いやいいけどさ……本当にやんの？」
「じゃ、Aちゃんやってー」
ダメ元でヘラヘラと笑って言うだけ言ってみる。彼女はパーソナルスペースをしっかり取るタイプだ。嫌がるMINIもいるかもとスキンシップには気をつけているひとなので、余計にである。それがたまに少しさみしい。
「理人」
「ん……っ！？」
ぺちり、と両手で頬をやられたと思ったらムニムニと揉まれる。あ、背伸びしてる。可愛い。そんなことを俺が思っているとは知らず、ふんわりと軽くハグをしてくれた。そして背中をポンポンしてからその華奢な身体は離れた。
「……うそ〜」
「何が？」
「だって、絶対してくれんと思った」
「気合い入れだからね」
「Aちゃんさあ、背伸びしてんの可愛いね」
「そんなこと思ってたの？ 理人余裕じゃん」
普通にバッチーン！ ってすればよかった。
「いや、かなり気合い入った、ぶち上がったわ」
スタッフさんのスタンバイしてくださいの声にその場を離れると、俺たちの一連を見ていた洸人が、えーずる！ A、俺にもやって！ 気合い！！ とゴネているのを軽くあしらっている彼女の声が背中から聞こえてくる。神兄貴ごめんな。Aちゃんは歳下には甘いから。
持ってる特権は活用しないとな。
俺は最高の気分のまま位置に着いた。
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作者名：co | 作成日時：2023年11月28日 1時
