第四話.長く付き合ってきた手-2 ページ6
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A「歌は歌えるけど、バンドの持ち味が表現できなくて。とにかくもどかしくて」
「ボーカル一本でやらないのか」
A「やってみたけど、あんましっくりこなかった。かと言ってこれで良いやって妥協した演奏なんて嫌だし。それに、俺が怪我してから皆んなそれを機に辞めてった」
今頃他の奴らはどうしているのだろうか。
すっかり交流も無くなった。
本当はもっと色々なことがあったが、彼に話せるのは今はこれが精一杯だった。
「お前はそれでいいのかよ」
A「んー、まあ…良くは無いけど。過去は過去だし、今こんな感じでもこれはこれで楽しいよ」
ふと隣へ目をやる。
彼は何も言わずに耳を傾けていた。
何か思う事があるのだろうか?
そんな表情をしているように見えた。
A「まあそんな感じでした。あ、翔平!もう今日は練習終わり?」
「お前がいると気が散って仕方ない。今日はもう帰る」
A「おうっお疲れ様!飯でも食ってきな!」
立ち上がった彼をこのまま帰さねぞという強い意志のもと両肩をがっしりと掴んだ。
「聞いてんのか」
A「カレーあるぞ!飯代要らないからさ〜〜〜いちご牛乳も付けるから」
久しぶりに捕まえたこの売れっ子をあっさり帰すなんて勿体無い。
何より、聞きたい話がたくさんあるのだから。
我ながら今年一番な小悪魔な笑みを作れたと思うのでそのまま覗き込むと、彼はふいと顔を逸らせた。
A「なーに照れてんだよ」
「照れてねえよ」
若干ムキになる所が可愛い。
半ば強引に引っ張りながら扉へ向かい、ドアノブに手をかける。
A「カレーといちご牛乳だよ?お前好きだろ?良いの?帰るの?」
「…カレーにいちご牛乳は合わねえだろ」
こんなくだらない会話に付き合ってくれるんだから彼も優しいものだ。
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作者名:香坂プロダクション | 作成日時:2018年4月25日 13時