ライブハウスと彼の声 (ページ5)

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第四話.長く付き合ってきた手-1 ページ5

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活躍してるって話を聞くのはすごーく嬉しいんだけどね…

ね？
やっぱり寂しいものは寂しいんだよなこれが。

そんな事を考えながら練習風景を眺めていると、ふいに翔平がこちらへと視線を投げかけた。

A「……ん？」

無言で見つめてくる彼をそのまま見つめ返す。

もともと言葉数が少ない彼だ。
付き合いが長いだけあって言葉にせずとも分かることはあるが、分からないことも多々ある。

「お前、今はバンドやってないのか」

片手をポケットに入れ、重心を片方の足に預けて立つ翔平…

立ってるだけなのに格好良いな！ずるいな本当に！同じ男として生まれたというのにこの差な！！好き！！！

「…どうなんだ」

A「んぉっ？！あ、ああ！そう！やってない」

男が男に見蕩れていたなんて言えないので慌てて応えた。

そう、今はバンドはやっていない。
このライブハウスで出会ったあの日はまだまだバンド活動の真っ只中だった。

あの日、リハーサルの前に最終確認と思って扉を開けっ放しで練習していた。
普通閉めるだろそこは。と後でバンドメンバーでもあり友達でもある奴に言われた。
めちゃくちゃに緊張していたんだって。仕方ないじゃんか。
今ではめちゃくちゃに恥ずかしかったとしか言えない。

「そうか」

そう一言だけ、翔平は呟くように言葉を洩らして近くのパイプ椅子に腰掛けた。

これがまた格好良い座り方なんだよな
座ってるだけなのにな
何ですかねこの差は

A「そーなんですよ。もしかして、何でバンド辞めたのかって聞きたいんだろ？ん？だろ？」

おどける仕草をしながら彼の近くに椅子を移動する。

久しぶりに間近で顔を合わせたが、本当に昔と比べて垢抜けたというか、全体的にお洒落になった。
さすがヴィジュアル路線のバンドをやっているだけある。

「お前が話したいだけじゃねえか」

A「そーんなこと無いって。極秘情報だし。まあ言うほど大それた事じゃないけど」

「………」

A「聞きたそうな顔してる」

「してねえよ」

これ以上からかうとさすがに怒られそうなのでこの位にしておく。

大それた内容じゃないような、重いような…そんな感じなのは嘘ではない。

A「バイクで事故ってから手が思うように動かなくてさ。前みたいに。本当参るよなー」

安っぽい蛍光灯の光に手をかざす。

女子のようなとは言えないけれど、あんまり男らしくない自分の手。
それでもかつて商売道具として長く付き合ってきた手だった。