第三話.心のどこかで ページ4
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久しぶりに翔平がうちのスタジオに来た。
その事をオーナーである父親から聞いたのは仕事の途中。
今度行われるライブのバンドのリストを作成していた時だった。
ここでの仕事は父親の手伝いなのでライブハウスの雑用は全部やる。
受付をやる時は受付、電話番の時は電話番、ブッキングならブッキングマネージャー。
最近は照明と音響も少しずつ勉強中だ。
その中でもステージの反対側にあるバーカウンターで仕事してる時が1番楽しい。
お客さんの姿と演奏しているバンドの両方が見えるからだ。
バーカウンターに居ればお客さんの推しやハマっているバンドの話も聞けるし、実はライバルバンドの偵察に来たってこぼれ話も聞ける。
バンドをやってた頃は何百倍も楽しかったけど。今は今でそこそこ楽しい。いろんなバンドが見れるし。
キリのいいところで作業を止め、彼が来ているというスタジオに向かう。
どんどんファンを増やして行って着実に伸びてきてからは会う機会もぐんと減った。
この勢いならメジャーデビューもそう遠くは無いだろう。
こじんまりとした建物なのでスタジオにはすぐ到着した。
重たい扉を静かに開けると、そこには以前より増して端麗な顔つきになった彼の姿があった。
A「あれ？せっかく良いスタジオゲットしたのに、こんなとこで遊んでていいの？」
本当は久しぶりに会えて顔が緩みまくる程に嬉しいのだが、いつもの癖で捻くれた物言いになってしまう。
「遊んでねえよ」
視線をマイクに戻し、吐き捨てるように彼は呟いた。
いつもの言い草だと彼も分かっているのでトラブルになる事はない。
親しいからこそできる会話だ。
丁度いいところにパイプ椅子がある。
見てても邪魔にはならないだろう。減るものでも無いし。
よし、今日は眺めるぞ。
それから一言、二言と言葉を投げかけた。
その度に紡ぎ出した言葉は意地の悪い言い方になってしまう。
我ながら素直にゆっくりして行けと言えばいいんだろうなと思いつつ翔平の練習風景を眺める。
かなり前のこと、音程のチェックとしてピアノを前にして練習に付き合った事があった。
今はもう必要なさそうだ。
もう、あの頃とは違う。
あの頃よりずっと離れた場所に行ってしまった。
活躍する姿が見れるのはとても嬉しいことに違いない。
けれど反面、心のどこかで寂しさを感じていた。
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作者名：香坂プロダクション | 作成日時：2018年4月25日 13時
