第十話.独断と偏見 ページ13
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夜の水面に、月の明かりと人工的な明かりが映り込んでいる。
昼間よりは人通りが減ったが、眠らない街を思わせる明るさがあった。
A『こんな所でばったり会えるなんて偶然過ぎない?もしかして、俺の事探してた?』
隣にいる彼にわざとらしく問いかけてみる。
内心そうであればなと思っていた。
翔平「なわけあるかよ。偶然だろ」
さらりと言い放つ。
デスヨネー
何となくだが、少し疲れているようにも見えた。
今となっては会いたい時に会えない存在だ。
普段どれくらい苦悩しているかなんて簡単には分からない。
ちょっと前までは会いに行けるイケメンだったのというのに…
会いに行けるイケメンって響き、最高じゃね?
A『いろいろあった?顔が疲れてる』
その問いかけに彼は何も言わない。
聞いても言わない時は言わないので、彼の口から応えが出るのを待つ。
翔平「色々あったよ。亮さんの…DICに対するイメージとか、相応しい場所とか理想が合致しないんだろうな」
溜め息をつくように言葉を洩らす彼の声を片耳で拾い上げる。
いろんな感情が混ざっているような声色だった。
A『そっか…』
彼がこんな時に良い言葉をかけてあげられないのがもどかしかった。
今の彼らは大好きだ。歌も以前よりさらに良くなって、見た目だけじゃない魅力が格段に向上している。
けれど、それだけじゃ駄目なんだ。きっと。
翔平「主題歌のオファーをキャンセルしたんだ。亮さんが求めるレベルに、俺達はまだ達していない」
淡々と…けれど、どこか悔しそうな声色で彼は云う。
ちらりと視線を向けてみるが、その目は遠くを見つめていた。
A『もしかしたら、なんだけど…』
その一言でやっと互いの視線が合う。
薄明かりでも分かる端正な顔立ちに、同性ながらも胸が高鳴りそうだった。
A『そのドラマがDICのイメージに合わなかった、って事だったり?』
翔平「イメージ…?」
A『あー、ほら、翔平達って大人格好良いとか、少し辛口な感じじゃん?コメディとかファミリードラマ系には合わなさそうっていうか…』
ファンとしての独断と偏見を本家の人に語るというのは少し気恥しい。
視線を斜め上に泳がせた。
しかし隣からは依然として視線を感じる。
翔平「いや…参考にはする。ありがとな」
余計に合わせられない視線をひとまず遠くの摩天楼に飛ばす。
A『翔平…大人になったね?』
翔平「うるせえ」
心配する程でもなさそうだ。
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作者名:香坂プロダクション | 作成日時:2018年4月25日 13時