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どれほどそうしていたのだろう。大して長くはなかったのかもしれない。空はまだどっぷりと夜に沈んでいた。
「またなんて」
私から溢れ出す薄浅葱は止まらなかった。ゆっくりと君の腕を抜け出して、君の顔を見る。
君は何も怖くないと言わんばかりに、目を閉じて微笑んでいた。いつもと同じ、穏やかな微笑み。
日に焼けていない白い頬に、長いまつげが影を落としていた。私には薄浅葱に見えた涙も、いつの間にか透明に変わっていた。
____初めから透明であったのだろう、と、今なら思う。
おおよそ白い壁に囲まれた白い君に、薄浅葱しか色がなかったから、涙が薄浅葱色に見えたのだ。
君の家族が、どんな思いで、君の最期を私とふたりきりにしたのだろう。君の願いだったのか、私の約束のせいだったのかはわからない。
あの夜、君はどんな思いで、私と屋上で花火を見たのだろう。
花火を見ることを選ばなければ、君は病室であの日よりもたくさんの管に繋がれて、呼吸器をして、少しでも長く命を保てたはずだった。
「目が覚めても長くはない命だ」と医者に告げられ、「屋上でふたり花火を見たい、もしここで見なくて、僕に来年はあるのか」と君が医者に掴みかかったと、数年経って知った。
「今日は、夏祭りだね」
花束を添えて、夕刻、私は君の元へ訪れた。毎年、墓石と共に花火を見ている。
「今年も、一緒に見よう」
君は私に最後まで隠しごとをした。病気であったことも、初めての夏祭りの夜と2度目の夏祭りの夜も、来年の保証などなかったことも。
君は君のことを狡いと言った。それはきっと、私に自分の想いを押し付けて、いなくなることを申し訳なく思ったからだろう。
実際そう考えた君は、初めて夏祭りで花火を見たあの日、伝えようとして思いとどまったのだ。そして、約1年の眠りについた。
目を覚ました奇跡の日、明日に迫った夏祭りに、君はどれほど思い悩んで、私に好きだと伝えただろう。
でも、それでよかった。伝えてくれてよかったのだ。
君と出会えて、共に空を見て、花火を見て、薄浅葱の夏を過ごしたことを、私は嬉しく思っているのだから、きっと、それで。
「ありがとう、約束を守ってくれて」
君と初めて夏祭りに行った夜のことを、私はいまだ夢に見る。あのとき君は何を言おうとしたのだろうか、今でも考えていることがある。
思えば私は、君のことが好きだった。
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