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母親は部屋を出て、スタッフを探しに行く。残りは桜と紅姫だけ。桜はちらりと彼女を見た。髪型はいつもの低い位置でのポニーテールではなく、両サイドを編み込みにしてシニヨンにしている。両親と紅姫、そして夫となる紅汰は、式場で着替え髪をセットしてもらったようだ。
「桜様、本当にお美しいです」
「紅姫……ありがとう。そう言ってくれて嬉しいよ」
「いいえ、とんでもないです。もうすぐ麗那様が来られると思います。ベールは何処ですか?」
「それなら確か……」
桜はキョロキョロと辺りを見回してみる。探し物のベールは案外近くのテーブルに置かれていた。
「……あ、あれだ」
「これですね。……結構長いんですね、このベール」
「そうみたいね。千歳と香恋が『桜にはこのくらいあった方が綺麗に見えますよ!』って、デザイナーさんに言ってたっけ」
このくらい、の時に彼女は両手を広げて見せる。持ってみても桜のウェディングドレスの丈より三十センチは長いだろう。
現在桜が着ているウェディングドレス、そして小物のウェディングベールとグローブは、全て純白にしていた。グローブはサテン生地の膝下ロング丈で、裾の部分には刺繍がされている。
「桜様、こちらのベールは私が着けても構わないでしょうか? それとも麗那様に着けてもらいますか?」
「そうだね…………お母様に着けてもらおうかな」
「畏まりました。ではこちらは私が持っておきますね」
「うん、お願い」
紅姫は持ったベールを丁寧に畳み、蓋なしの箱に入れた。丁度いいタイミングで、母親がスタッフと一緒に戻ってくる。
「桜、今なら大丈夫らしいわよ。早速行くかしら?」
「宜しいのですか、お母様? そうですね……はい、行きます」
「ではこちらへどうぞ、朝霧様。ベールは……会場に入る直前でお付けになりますか?」
「ええ、そうします」
ではそのように、とスタッフは恭しく礼をして廊下へ先導した。桜達三人はフィッティングルームを出て、ファーストミートをする部屋に歩を進める。ファーストミートをする部屋は桜と紅汰のフィッティングルームの、ちょうど真ん中にあった。距離もだいたい同じで教会の二階の、ゲスト達がいる一階のロビーから遠い場所にある。
「お母様、招待客はどのくらい来てますか?」
「そうね……半数は来てるかしら。私も後で挨拶周りに行くわ」
「そうですか……」
「この部屋です」
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