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「雅姫ちゃんが・・」
どくりと確かに自分の心臓の音を聞いた。雅姫だ。やっぱり雅姫に何かあったんだ。
しかし母はそれより先を告げようとしなかった。
「くそッ!」
なにか手がかりはないか、他の人に聞こうと外へ駆け出す。そこで異様なものを目にしてすぐに立ち止まった。
「何、これ・・」
普段はあまり通る人もいない道なのに、今日は人であふれかえっていた。その老若男女だれもが白い着物を着ているのだ。子供も大人も関係ない。ただただどこかを目指して歩く白い服の集団は、異常としか言いようがなかった。
「あの、すみません」
「あら、冬樹君じゃない。どうしたの」
勇気を振り絞って声をかけてみると、同級生がいたことに気付く。
「あ、あの、雅姫が今どこにいるか知ってる?」
その同級生はぱちくり瞬きをして、何でもないような声音で言った。
「周雅姫は生贄になったんだよ」
ひゅ、と吸い込んだ息でのどが詰まる。イケニエ。口の中で反芻して、そのことをいつか雅姫が言っていたのを思い出した。
『4年に一度生贄を捧げれば、神様がこの村を守ってくれるんだ』
「儀式は神聖なものだから、白い洋服を着ていかなくちゃいけないんだよ。・・・ぁ、まさか、」
下を向いていた僕の顔を、彼女はのぞき込むようにして視線を合わせた。
「助けに行こう、なんて思ってないよね?」
「っ、」
心を見透かされたようで、後ずさりする。その瞳は光がなく、のぞき込めばそのまま暗闇に引きずり込まれそうなほど暗かった。
「これは神聖な儀式なんだよ。だから、だれも邪魔しちゃいけない、ううん、邪魔できないの。生贄に選ばれたことは名誉なことだから、称えるべきこと。わかるでしょ?」
わからない、と小さく首を振った。なんだこの子は。なんなんだ、この村は。目だけ笑わずに告げるその様子は恐怖でしかなかった。
「周雅姫は生贄。神様に守ってくれてありがとうって、それを伝えに行くために、火に飛び込むの。だって神様に簡単に会えるわけないんだから、私たちもそれだけの代償を支払わなくちゃいけないんだよ」
狂っている。こんなことを言ってしまえる少女も、この村も。ばさり、と膝から崩れ落ちた音が自分の物だと気付いたのは顔の近くまで迫った地面を直視してからだった。

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作者名:8人の小説家 x他6人 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2018年6月3日 18時

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