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今日は天気が良かったことと、僕たちの島の外に降り積もった灰が舞い上がってそれがまた光を反射している。紙吹雪のような灰はどこか幻想的で美しかった。
さっきは、ごめん。僕は小さく謝った。雅姫はもうあまり気にしていないようで、こっちこそ。と僕と同じ声量で返した。
「前も来たよね、ここ」
雅姫の言葉に頷く。いつも僕が見ている海の景色よりも、もっと高いこの場所にはめったに来ない。やはり高いだけあって、いつものところよりももっと遠くの場所が見渡せる。
ふと横を振り向いたところで、小さく息を呑んだ。
まただ。また、あの顔をしている。寂しそうで、何かに迷っているような、引き留めてほしいような、そんな表情。
君にはそんな悲しそうな顔よりも、笑顔の方が似合うのに。浮かんできたのはそんな少女漫画でも使わないような甘い言葉で、小さくため息をついた。
どうしたの、という小さな声は、宙に掻き消え、夕闇の空に沈んでいった。
「っていうか明日から学校だよね?ほーんとめんどくさい」
「雅姫は課題終わった?」
「あったりまえじゃない!冬樹こそ終わったの?」
「・・・えっと・・数学が残ってる・・」
「ほーら!ちゃんと終わるの?」
「まぁ、あと少しだから」
「そ。ならいいけど」
そう言って雅姫は立ち上がる。一度ぐいと伸びをして、楽しそうににかりと笑った。
「今日は付き合ってくれてありがと」
僕は小さく笑った。いつもこうやって雅姫に会うたびに元気をもらってるから、僕の方がお礼を言いたいぐらいだ。
「じゃあ、降りよっか」
「そうだね」
完全に日が沈んでしまうとここら辺に詳しい僕たちでも迷ってしまう可能性があるのでその提案を飲んだ。
それでも、少し。もう少しだけ一緒に居たかったなんて―――。
ふもとまで一時間かけておりたところで、T字路にあたった。雅姫の家は右方向、僕は逆だ。
「・・・もう少し、一緒に居たかったな」
どくんと心臓が高鳴ったのを感じる。僕が考えていたことと同じことを感じてくれていたのが嬉しかった。
「じゃあ、じゃあさ、・・もう少しだけ、一緒にいない?」
蝉の音がやけに五月蠅かった。ざわざわと揺れる風の音が、雅姫の声を掻き消してしまう。下を向いた彼女が何を言ったのか、僕にはわからなかった。
「ごめんね。私、やらなきゃいけないことがあるんだ」
「あ・・そっか」
断られたことに空振った恥ずかしさを感じて矢継ぎ早に続ける。
「うん、そうだよね。じゃあまた明日!」
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