雪青灰の海に溺れて(mokomoko) ページ12
「お父さん、お外に遊びに行きたいよー!」
「こーら。今日はダメだって言ったよね?」
髪をツインテールに結んだ少女は口を尖らせて反論する。
「なんでー!?昨日も一昨日も、お父さんダメっていってるじゃん!」
それを聞いた父親は小さくため息をついた。
「灰が降ってるからダメだって言ってるんだよ。特に今日は一年の中でもよく灰が降る日だからね」
「ふーん。なんで」
拗ねてしまった少女に父親は苦笑し、しゃがんで目線を合わせてからゆっくりと語り始める。
20xx年7月15日。
それは悪夢の始まりだった。世界中の火山の活動が活性化し、いつ噴火してもおかしくないと言われていたそれがついに爆発したのだ。連動して次々に爆発した山々からはマグマが吹き出し、数え切れないほどの家を燃やし尽くした。もちろん被害はそれだけではない。爆発物に含まれた石の破片や有毒ガス、そして灰が瞬く間に世界を包んでしまったのだ。人々は生きるすべを失い、絶望にくれていた。
だからそんな噂が流行ったのだろう。この世界には唯一灰が降らない、いや、火山の影響を何一つ受けていない島があるという都市伝説を。
それが、秘境『雪青灰』。
***
雪青灰、日本人的に読むのであれば、セキセイハイ島とでも言うのだろうか。僕がこの島に来たときは、確かそんな風にこの島のことを呼んでいたはずだ。実際のところ、この島の名前は中国語でシュエチンホイというらしい。見た目は日本語のようにも見えるのだから不思議だ。
この島はいわゆる村のようなもので、住んでいる人は全員顔見知り。つまり田舎であって、もちろん人里から離れたこの島にテレビやインターネットなどは存在しない。それでも人々はそんなのどかな雰囲気を楽しんでいる。そもそももともとないものは欲しがるはずもないので、当然と言える。
まぁ、僕以外は。
「はぁ・・」
小さくついた溜息が、白い煙とともに空に混ざった。もうすぐ夏と言っていいはずの時期なのに、夕方は随分と冷え込んでいる。
「暇だなぁ・・」
そう、暇なのだ。僕は対して本を読むような人ではないし、そもそもインターネットがあるこの世代でそれを使わずに暇をつぶせという方が難しい。引っ越してくる前は自由に使えたのにな、なんて昔に思いを馳せてため息をついた。
「なぁに、また引っ越す前のこと考えてんの?」
「わ、雅姫。いたんだ」
「気付かなかったの?私ずっとあんたの後ろにいたんだけど」
「全然。それにしてもよくここがわかったね」
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