ORDER14 ページ47
「参ったわね、こんな時にセールやっているなんて……買いすぎちゃったわ」
太陽の照りつける夏空の下。喫茶『クロック』の定休日。Aは、少し遠出をして買い物に出かけていた。
ブン太は製菓材料の買出しに出かけ、今日もAは一人。コーヒー器具や食材に加えて、お目当ての豆屋のセールに浮かれ自分が持てる限界のギリギリまで荷物を増やしてしまった所存である。
何とか最寄りの駅まで辿り着き、店までの帰路を辿る。
容赦ない夏の太陽と、アスファルトで照り返された熱気。荷物の重さも加わって、Aは目眩を覚えた。
(本当に……今日も暑いわ、私……お店に帰れるのかしら……)
腕に掛けた袋と、手に持った袋が同時に彼女の体力を蝕む。彼女が息をついた、その時。
「きゃっ！ 」
後ろからの圧力により、思わず抱えていた袋を手放してしまった。
「す、すんません！ お姉さん、大丈夫ですか？ 」
中身があちこちへ転がっていく中、爽やかな関西弁が聞こえた。
見上げると、銀髪の良く似合う青年が心配そうにAを見下ろしていた。すると、落とした荷物に気がついたのか彼は慌ててその荷物を拾い集めにかかった。
その姿には、どこか見覚えがあった。
(……)
恐らく、自分は彼の名前を知っている。そして、彼と同じことをした青年が何をしたのか。それも、多分。
(……貴方は、そうしてまで不幸になりたかったの？ いいえ……貴方が選んだ道は、そうだったのね……)
じんと膝を襲う痛みに、Aは口を噤んだ。ああ、もう。自分が何を言っても、彼らはきっと変わらないのだろう。
「ほんまにすんません、俺ぼうっとしとって……袋、ダメになってまいましたね。良かったら俺、お宅まで持ってきますよ」
「そんな、悪いわ……」
「いや、そもそも俺が悪かったんで……どこまでですか、持ってかせてください」
「ううん……それだったらお願いしようかしら。もうすぐそこよ、貴方お名前は？ 私はA、喫茶店の店主をしているの」
ああ、俺は。と笑った顔が、あの日の彼と重なった。
「白石蔵ノ介いいます」
「……そう、じゃあ行きましょうか。蔵ノ介くん」
闇を秘めたその笑顔に、Aは心の奥底に痛みを覚えた。
レモンの香りがどこかからふんわりと漂う。どこかで蝉が、二人の背に向かってけたたましく鳴き喚いていた。
夏はまだ、終わらない。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 23人がお気に入り
お気に入り作者に追加
「テニスの王子様」関連の作品
この作品を含むプレイリスト ( リスト作成 )
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
幻想曲(プロフ) - 鳴菜瀬さん» 鳴菜瀬ちゃん！！久しぶりです、ものすごい亀更新になると思うけどまた見てくれたら嬉しいです……！ (2018年2月10日 23時) (
レス) id: 530eb924bf (このIDを非表示/違反報告)
鳴菜瀬(プロフ) - お久しぶりです。鳴菜瀬です!!覚えてるかな?久しぶりに占ツク来たら新作上がっててびっくりしました。おかえり!これからも応援してます! (2018年2月4日 17時) (レス) id: 62c6436c3e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：幻想曲 | 作者ホームページ：http://uranai.amanoboru
作成日時：2018年2月1日 2時
