ORDER2 ページ16
堪らなく心が潰れそうになる時。そんな時は、彼は決まってある場所に赴いた。
テニススクールから程近く。漂う芳ばしい香りに、少しだけ心が和らいだ。
「いらっしゃい……あら、また来てくれたのね。いつもありがとう、どうぞ」
ベルの音と共に流れ込む香りを、体いっぱいに吸い込む。いつの間にか顔を覚えられていたのか、店主は笑って彼を迎えた。
「ありがとうございます」
何もかもを忘れさせてくれる、この空間。偶然この喫茶店を見つけてからというもの、ここへやって来てすべてを忘れるのが彼の習慣になっていた。
「今日はどうするの？ 」
冷やを彼の前に出しながら、店主は尋ねる。彼のオーダーはいつも決まって、本日のオススメのブレンドだった。
「ブレンドをください」
「いつもと同じね、わかったわ。少し待っていてね」
店主が去ってから、椅子に深く座り彼は天井を見上げた。
この腕が、自由に動いたなら。
また、そんなことを考える。いけないと思い立ち、鞄から取り出した本に目を通しても何故だか、今日だけはその考えが頭から離れなかった。
(どうしてこんなに……？ )
おかげで本の中身も頭に入らない。溜息をつき、頭を抱えたその時だった。
「お待たせしました」
こと、と音を立てて彼の前に注文の品が置かれた。
湯気の上るコーヒー。そして、もうひとつ。少し形の崩れた、小さなチョコレートタルト。
「……あの、これは？ 」
「いつも来てくれているでしょう、私からのサービスよ。売り物にならない物だから形は少し不格好なんだけれど、味は変わらないわ。よかったら食べてちょうだい」
「良いんですか」
「もちろんよ。なにか思いつめているみたいだし、よかったらそれを食べて元気を出してちょうだい、ね？ 」
「……そうですか、そういうことなら。すみません、ありがとうございます」
そう言って、彼は皿とともに出されたフォークを手に取った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 23人がお気に入り
お気に入り作者に追加
「テニスの王子様」関連の作品
この作品を含むプレイリスト ( リスト作成 )
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
幻想曲(プロフ) - 鳴菜瀬さん» 鳴菜瀬ちゃん！！久しぶりです、ものすごい亀更新になると思うけどまた見てくれたら嬉しいです……！ (2018年2月10日 23時) (
レス) id: 530eb924bf (このIDを非表示/違反報告)
鳴菜瀬(プロフ) - お久しぶりです。鳴菜瀬です!!覚えてるかな?久しぶりに占ツク来たら新作上がっててびっくりしました。おかえり!これからも応援してます! (2018年2月4日 17時) (レス) id: 62c6436c3e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：幻想曲 | 作者ホームページ：http://uranai.amanoboru
作成日時：2018年2月1日 2時
