ORDER8 ページ21
アップルパイにリンゴのマフィン。赤いリンゴのジャムはまだ煮詰めてるから、もう少し後で。
しかし、リビングに戻ってもAさんの姿はなかった。
「あれ……Aさん? 」
「はあい、ここよ」
右奥からAさんがひょっこり姿を現した。手には、黒い液体の満ちたポットが握られている。
バターの香りと絡み合う香ばしい匂い。コーヒーなんて、いつの間に準備してたんだろう。
「せっかくだからと思って。あ……カップがないわね、持ってくるわ」
「あ、ありがとうございます」
置かれたポットから白い湯気が立ち上る。クーラーから吹いた風が、その湯気をゆらゆら揺らして遊んだ。
冷えた部屋であったかいコーヒーとか、どういう贅沢だよ。
俺は作った菓子をテーブルに起き、拝借した白い皿にアップルパイを切り分けた。戻ってきたAさんが、それを見て目を輝かす。
「まあ……! すごいわ、ブン太くん! あれだけあったリンゴが……魔法みたいね! 」
「ま、俺の手にかかればこんなもんですって。どうぞ、食べてみてください! 」
Aさんはカップを二つ置くと、嬉しそうに席についた。シュガーポットとミルクピッチャーも忘れずに置いて、いよいよポットのコーヒーをカップに注ぐ。
黒く僅かに透明な液体が、糸のように細く白いカップに注がれる。同時に、フルーツみたいな香りが俺の鼻の中を満たした。
コーヒーって、こんなに良い匂いがしたんだっけか。その、びっくりするくらいの良い匂いと注がれていく綺麗な黒い線は、俺の心の片隅にこびり付いて離れてはくれなかった。
42人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
幻想曲(プロフ) - 神の子依存症@鈴歌さん» ありがとうございます!表現の仕方については私もこの作品を作る上で気をつけている点なのでそう言っていただけて嬉しいです!頑張ります! (2019年4月5日 16時) (レス) id: 530eb924bf (このIDを非表示/違反報告)
神の子依存症@鈴歌 - 初コメ失礼します。情景が浮かぶような、風景画みたいな表現のしかたと不思議な切ない話に惹かれて前作から読みました。更新楽しみにしています。無理しない位で頑張って下さい (2019年4月5日 15時) (レス) id: af6ad853e4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ