ORDER6 ページ19
流し台の下の棚を開ける。整理整頓された、とは言い難いが再びしまい込まれた台所道具たちが姿を現した。
大中小のセルクルに、様々な形のケーキ型。マドレーヌ型にフィナンシェ型、耐熱の陶器の型にプリン型。チョコ用モールドまである。
別の戸を開けると、泡立て器やゴムベラはもちろんのこと固定型の電動泡立て器や絞り型まで。そしてガスコンロの下には立派なオーブン。お菓子作りが好きなんだろうなって感じの充実ぶりだった。
「母がね」
気がつくと、Aさんが入口あたりに立っていた。
「母がね。得意だったのよ、お菓子作り。小さい頃はパティシエになりたかったんですって。それは全部母のものよ」
「へえ、通りで……」
お母さんのことを詳しく追求するのはやめた。俺も、察せないほどガキじゃない。
Aさんはまた、ぽつりぽつりと言葉を続けた。
「リンゴは毎年、この季節になると母の親戚が送ってきてくれるの。単に酸っぱいリンゴが好きなのかなって思ってたけど、ようやく合点がいったわ。好きだったのよ、アップルパイ」
毎年美味しいお店を見つけて、アップルパイを買ってきているんだとか。
にしてもねえ。料理出来ない人間に食材送ってくるって、どういう拷問だよ。食い切れてんのかな。
……いや、待てよ。これは……
「Aさん。あの、台所借してくれません? 」
「別に構わないけど……」
「ありがとうございます、じゃちょっと出てきます! 」
「え!? な、ちょっ……ブン太くん!? 」
俺は考える間もなく、裏口からスーパーに向かって飛び出した。
助けてもらったんだ。そのお礼にって言ったらなんだけど、丁度いいじゃねえか。
それに、こんなに道具の揃ってる環境……パティシエ志望にしてみちゃ、我慢できるわけねぇだろぃ!
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幻想曲(プロフ) - 神の子依存症@鈴歌さん» ありがとうございます!表現の仕方については私もこの作品を作る上で気をつけている点なのでそう言っていただけて嬉しいです!頑張ります! (2019年4月5日 16時) (レス) id: 530eb924bf (このIDを非表示/違反報告)
神の子依存症@鈴歌 - 初コメ失礼します。情景が浮かぶような、風景画みたいな表現のしかたと不思議な切ない話に惹かれて前作から読みました。更新楽しみにしています。無理しない位で頑張って下さい (2019年4月5日 15時) (レス) id: af6ad853e4 (このIDを非表示/違反報告)
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