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藍沢は何も言えないまま、
凛の瞳を見返す。
哀しげな色を宿した大きな瞳は、
藍沢の視線を真っ直ぐに受け止めていた。
からん、とグラスの中の氷が音を立てる。
「…………耕作さ、
子どもの頃に私と会ったのって覚える?」
「なんとなく、な」
凛の問いかけに、藍沢は記憶の糸を辿る。
自分に向けて伸ばされた小さな手のひら。
真っ直ぐ見つめてくる大きな瞳。
──こーさく?
たどたどしく、名前を呼ぶ声。
ぼんやりとした記憶の中の、幼い凛。
「あの後すぐ、アメリカに行ったの」
あの時と変わらない大きな瞳で
藍沢を捉えながら、凛は言う。
「お父さんは耕作のお母さんと同じ研究者で、
お母さんは医者だった。
2人とも多忙で、結婚は反対されてた。
でもそれを押し切って結婚して、
どちらの家からも離縁されたんだって。
唯一、耕作のお母さんとは連絡をしていて、
あの日、アメリカに行く前に会いに行った」
「…………」
藍沢は、これまで凛の存在を
祖母から聞いたことがなかった理由が分かった。
繋がりが母しかなく、とても薄かったのだ。
もしかしたら祖母は、
凛のことを知らないのかもしれない。
「お母さんのようになりたくて、
医者になって、向こうで仕事も始めた」
凛は視線を落とし、テーブルの上で指を絡ませる。
「忙しい毎日だったけど、充実してた」
伏せられた瞼を縁取る長い睫毛が揺れ、
凛は再び藍沢へと視線を向けた。
「でも、私はある日、
診療中に突然意識を失った」
「──!」
凛はその時を思い出すかのように目を細めた。
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ri_n(プロフ) - うたプリ大好き?さん» コメントありがとうございます。失礼致しました!訂正しましたm(_ _)m (2017年10月13日 2時) (レス) id: a553a04bd8 (このIDを非表示/違反報告)
うたプリ大好き?(プロフ) - 設定の[それが凛の生きる意志。]から名前固定されています! (2017年10月11日 23時) (レス) id: 4e8990689c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ri_n | 作成日時:2017年10月11日 17時