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凛はマグカップをテーブルに置き、
傍にあった自分の鞄に手を伸ばす。
中から手帳を取り出し、
裏表紙を捲って、1枚の写真を藍沢へと差し出した。
「……これ、」
「うん、あの日の写真」
藍沢は渡された写真を見つめる。
そこには、幼い日の自分と、
大きな瞳の少女が写っていた。
凛だ、と藍沢は写真の少女を見て、思う。
「この写真を見て、すぐに、
日本で助けてくれたのは耕作だって気が付いた」
面影は確かにあるが、かなり風貌は変わっている。
だが、藍沢もこの少女を凛だと分かったように、
きっと凛も藍沢だと気が付いたのだろう、
と藍沢は納得する。
「嬉しかった。
家族って呼べる存在がいるって思ったら、
すごく嬉しくて、会いたくて」
藍沢が返した写真を受け取り、手帳に挟む。
「西条先生の後押しもあって、
私は日本に行くことを決めた」
ただ独り、治らない病を抱え、死んでいく。
そんな暗闇の中で“藍沢耕作”は
生きる為の希望の光になった。
その時を思い出し、凛は笑った。
「耕作の存在が、
私の“生きる力”になったんだよ」
ありがとう、と凛は藍沢に向かって微笑む。
藍沢はどう返していいのか分からず、
曖昧に頷いた。
「…………病気、」
暫し沈黙した後、ぽつり、と藍沢が言い、
凛は藍沢から視線を外した。
「どんな状態なんだ」
「……とりあえず今は薬のおかげで
意識を飛ばす発作はごく稀にしか起きない」
ただ、と、凛は言葉を続ける。
「根本的な治療法は、まだ、見つからない」
俯いた凛の髪が横顔を隠した。
「…………私、耕作の傍に、いたい……」
ゆっくりと紡がれる言葉。
藍沢は黙ってそれに耳を傾ける。
「できるだけ、長く、医者として。
それが、私のせいで亡くなった両親の為だと思う」
そう言った凛の言葉は悲しげに響き、
藍沢は苦しくなる。
しかし、しっかりとした意志を持った言葉だった。
「…………凛、」
そっと呼びかけると、横顔を隠していた髪が揺れた。
すっと手を伸ばし、凛の頭に触れる。
そのまま、藍沢は凛の頭部を自身の胸へと引き寄せた。
「っ」
小さく息を呑んだ凛の身体が傾き、
ぽすん、と藍沢の胸へと倒れ込む。
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ri_n(プロフ) - うたプリ大好き?さん» コメントありがとうございます。失礼致しました!訂正しましたm(_ _)m (2017年10月13日 2時) (レス) id: a553a04bd8 (このIDを非表示/違反報告)
うたプリ大好き?(プロフ) - 設定の[それが凛の生きる意志。]から名前固定されています! (2017年10月11日 23時) (レス) id: 4e8990689c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ri_n | 作成日時:2017年10月11日 17時