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「でさ、気になってたんだけど、お前最近その顔で何してるんだよ。
信号待ちの雑音が少ない車内で、彼は俺に話しかけてきた。
その質問に、そういえば言っていなかったかと、俺は彼に伝えていなかった“あること”を思い出す。
「お前らしくもない昼間から出歩いちゃってさ。この前公園に迎えに行った時もその顔――月城だっただろ? いつもの黒髪好青年はどうした? ……クリスさんに許可とってるのか?」
「むしろ、そのクリスに言われてこの顔のまま外に出てるの。おまけにバイトまでしろーって言い出すからほんと嫌になる」
俺が月城で街を出歩く理由を伝えると、彼はバッと振り向いて間抜け面を俺にサービスしてくれた。
文字通り、俺の言ったことが信じられないのだろう。
是非ともこの顔を写真に収めておきたいと思ったが、あいにく後部座席にバッグごと放り投げてしまっていているからその願いは叶わず仕舞いだ。
「え、お前が?嘘だ」
「本当だ」
「どこで?」
「米花町の喫茶店」
「え〜?無愛想の極みみたいなお前がバイト?ありえねぇ。しかも接客業かよ?こりゃ爆笑必至」
「しかたないだろ――あっ、前!信号青!」
数秒前に変わった信号を利用し、癪に障った部分を代弁するように声を張り上げる。
俺がクラクションを苦手としていることを彼も知っているため、慌てて車を発進させた。
それにしても、俺がバイトを始めたことを伝えると、みな同じ様な反応をする。
それほど俺は人と縁を切って過ごしていたということだが、俺がしたくて縁を切ったわけではないということを理解しておいてもらいたいところである。
「そのバイト、順調なのか?」
「まあ、なんとか」
「ふーん。……ま、気が済むまで、いつもは得られない刺激を楽しんだら良いんじゃない?」
「……平和、だと良いけどな」
気が済むまで、というのは“俺の”なのか“姉さんの”なのか。
彼がどちらの意味で言ったかは分からないが、彼の言うとおり、俺はもぎ取ったこの生活を全力で楽しむことにしようと思う。
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izawa(プロフ) - 東雲虚さん» ありがとうございます! (7月24日 21時) (レス) id: f153ef9291 (このIDを非表示/違反報告)
東雲虚 - とても面白い作品でした 更新楽しみに待ってます! (7月10日 14時) (レス) @page41 id: 272de617c9 (このIDを非表示/違反報告)
izawa(プロフ) - 明里香さん» ご指摘ありがとうございます!修正しました! (2022年10月5日 19時) (レス) id: f153ef9291 (このIDを非表示/違反報告)
明里香(プロフ) - 51話、ブロンズヘアーじゃなくて、ブロンドヘアーです。 (2022年10月5日 6時) (携帯から) (レス) id: 85d4df75a2 (このIDを非表示/違反報告)
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