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「そうは見えない?」
盗聴器入りの袋をテーブルに置き、オレをじっと見つめた月城さんは、ふわりと微笑む。
オレはそんな月城さんに段々と気味が悪くなって、やや睨みながら質問をした。
「だって、あいつのこと月城さん黙ってるよね?」
ここでオレはわざと、灰原のことをあいつと呼んだ。
これで月城さんが灰原のことを分かっているのかハッキリするはずだ。
案の定、一度「あいつ?」と不思議がった月城さんはすぐに思いつく節があったようで、納得して話し始めた。
「……ああ、シェリーの事?それに関しては俺があの人のことを応援したいから黙認してるだけだよ。ただの俺の気分って所かな」
やはり月城さんは灰原が組織のシェリーであることを知っていたようだ。それはもちろん幼児化を知ったというのと同じこと。分かっていながらもオレの心臓の鼓動は速くなる。
ましてや『俺の気分』だなんて危険な言葉に泳がされているなどもってのほかだ。
しかし、黙認の理由はベルモットとは違い、月城さんからは敵意が全く感じられない。それに『応援したい』だなんて……。
「なら、ここに来た目的は?」
嫌な汗をかきながらオレは月城さんを続けざまに問い詰める。
しかし月城さんは至って普通に飄々とオレの質問に丁寧に答えた。
「それも残念だけど偶然。何も目的が無い、ただのバイトだから君たちには何もしなかった。それだけの事だよ。まあ、一回君の地雷を踏み抜きそうになったことは認めるけど、あれは事故だと思って欲しいね」
終わりにはオレに頼むような言い様で話し終えた月城さんは、自分は何もおかしなことはしていないと、そういった風に平然と座っている。
それに対しオレは、目の前にいる思考の読めない脅威にただ唖然とするしかなかった。
「なら、どうして――」
――逃げずにここに来たの?
オレはその最後まで口に出せずにただ黙ることしか出来なかった。
最初から直球に、そう訊けば良かったのかもしれない。だが、それではオレとして、探偵として納得がいかなかった。
何かしら組織が関連して月城さんに指示していたからここまで残っていた、そうだと思っていた、思い込んでいた。
でもそれらは全て俺の思い込みでしかなく間違いだったのだ。
目の前の男の、行動が理解できない。
彼を動かす“何か”が掴めない。
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izawa(プロフ) - 東雲虚さん» ありがとうございます! (7月24日 21時) (レス) id: f153ef9291 (このIDを非表示/違反報告)
東雲虚 - とても面白い作品でした 更新楽しみに待ってます! (7月10日 14時) (レス) @page41 id: 272de617c9 (このIDを非表示/違反報告)
izawa(プロフ) - 明里香さん» ご指摘ありがとうございます!修正しました! (2022年10月5日 19時) (レス) id: f153ef9291 (このIDを非表示/違反報告)
明里香(プロフ) - 51話、ブロンズヘアーじゃなくて、ブロンドヘアーです。 (2022年10月5日 6時) (携帯から) (レス) id: 85d4df75a2 (このIDを非表示/違反報告)
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