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その携帯電話には見覚えがあった。
確か、面接の日に忘れ物として榎本さんが見つけたという物だ。
だが、面接があったのは二日前だ。
二日も携帯電話の持ち主が見つからない……なんてことがあるだろうか。
不思議なこともあるのだな、と俺はその携帯電話から目線を外した。
しかし、後に榎本さんがとある探偵にその忘れ物の調査を依頼したことで、この忘れ物はただの不思議な携帯電話ではなかったという事を知る事になる。
***
「お、新人君かい?」
「なに梓ちゃん、良さげな子連れてきてんじゃん」
「私が連れてきたわけじゃないですよ。バイト募集の貼り紙を見た彼のお姉さんの紹介です」
開店してから小一時間、俺は既に疲れていた。
注文を取るのは決して難しいものではないし、水や注文品を席に届けるのもそつなくこなした。
問題はそこではない。
俺が疲れている理由、その原因は常連客と思しき人物たちとの会話だ。
今日からバイトを始めた俺は、ポアロでの朝を日常化し、新鮮さに飢えている常連客の格好の餌食となった。
誰にでも愛想を振りまくような事ができない性分な俺は、たどたどしく反応してはその返答に困っていた。
初めは隣に榎本さんも立って一緒に話をしていたのだが、注文が入ると榎本さんは厨房へと行ってしまう。
そうすれば俺一人で突っ立っていないといけなくなるのだ。
机を拭いたり、食器を片付けたりなど、探そうと思えばやる事は多い。
だが朝一番、なんなら今注文を受けたばっかりのこの状況では、そのような仕事は無かった。
また、さっきとは別のお客に声をかけられる。
「話聞いてたよ、兄ちゃん高校生なんだ?大人っぽいなぁ」
「よく言われます」
「そっかぁ……。学校楽しい?」
「普通……ですかね」
「普通ねぇ、彼女さんとか居ないの?兄ちゃんなら一人くらい居てもおかしくなさそうだけど」
「居ないですよ、俺そういうの興味無いので」
「ええ、そうかい……」
と、この調子で会話は途切れ、終いにはお客を困らせる始末。
俺としては最善の返答をした気でいたのだが、どうも上手くいかない。
とりあえず、俺は自分に非があることをお客に伝える。
「あ、ごめんなさい。俺、雰囲気悪くしちゃって……」
「いやいや……」
お客も手をパタパタと大丈夫だと言ってくれるが、このままでは俺のせいでポアロ全体の印象が悪くなってしまいそうだ。
どうにかしてある程度マシな受け答えが出来るようにしなければならない。
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