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「月城兄ちゃん凄いね!接客しててもボクのことちゃんと見てたんだ!」
今までで一番の猫かぶりなコナン君の言葉に、俺は見るに堪えない思いが増していく。
今回、俺がコナン君が“好き”を隠している事に気付いたのは、俺の経験からだ。
わざわざサービスだと言ってアイスコーヒーを出したのも、彼に俺の過ちを繰り返して欲しくなかったからだ。
だが、ソレを伝える以前に、俺は彼に必要のない警戒を与えてしまった。
自分語りは嫌いだが、伝えないわけにはいかない。
彼の、俺への警戒を解くためにも。
「いや、……似てたんだ」
「えっ?」
ボソッと呟いた俺の言葉に、コナン君は裏返った声を出す。
今の俺は、一体どんな顔をしているだろうか。
全く検討がつかない。
俺は決心して開くことの無い、固く閉ざされた門のような口を開いた。
「コナン君の羨ましそうにしている顔が、昔の俺にそっくりだったんだ」
彼は、昔の俺のように素の自分を隠している、と俺はコナン君に伝えることにした。
「昔の、月城兄ちゃん……?」
「ああ。その猫かぶりも、昔の俺にそっくりだ」
「猫かぶり……?なんのこと……?」
未だ驚いた様子でとぼけるコナン君。
その言葉の裏に、俺を見極めるような鋭い目を彼は持っていた。
彼が俺を怪しむのは仕方がないが、俺は彼がこんな装いをするナニカを知りたくてアイスコーヒーを出した訳ではない。
ひとまずこの誤解を解かなければ、俺は彼にどんな疑いをかけられるか分からない。
「ごめん。コナン君のこと詮索したいわけじゃない。君は賢いから、きっとそうする理由があるんでしょ?」
一瞬、ハッとした様子を見せたコナン君の目がますます鋭いものとなる。
だが、先程よりも警戒は解かれたようだ。
「俺もそうだった。でも、それで大切なものを失った」
「大切なもの……」
コナン君が俺の言葉を反芻しているうちに、俺は厨房からカウンターに戻る。
椅子を引き、コナン君の隣に座った。
コーヒーを片手に一口。
未だ俺は迷っていた。
本当ならば、もっと具体的に伝えるべきなのだろう。
だが、俺はその“失ったもの”を彼に伝えることは出来ない。
俺はコナン君に、俺の罪を背負わせるにはいかなかった。
「コナン君も俺と同じ思いをして欲しくない。だから、少なくとも俺の前では素の君で話して欲しいって思った」
隣を向いて、今できる精一杯の笑顔を作る。
不格好でもいい、彼に伝わればよかった。
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