裏腹、恋してる (ページ10)

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side 名取

一本余ってしまった缶コーヒーを持って、ぶらつく。

すると人影が見えて来た。

「…緋山先生」

「あぁ、アンタか。ってなんで缶コーヒー二本持ってんの？」

「いやー、なんか二本出て来ちゃって。要ります？」

「二本出てくることなんてある？…まぁいいや。貰う」

緋山先生が雑な手つきで缶コーヒーを受け取り、勢いよく缶を開けた。

そこらへんにあった椅子に座り、一息つく。

「この時間はこれだよねぇ…あーあ、今日もつっかれたなぁ」

ぐっと伸びをする緋山先生。そう言えば今日の当直は緋山先生だっけ。

「ほんとはコレ、わざと二本買ったんですよ」

「は？そんなん私が飲んでよかったの？」

「いや、受け取ってくれなくて。まぁ、お前のために買って来たぞって言わなかった俺が悪いんですけど」

「ふーん？さては新人慰めに行ってたでしょ」

緋山先生が愉快そうに俺の顔を覗き込む。正直うざい。

「ああそうですよ。橘先生に言われたんで。これくらいはしてやろうと思って」

「なーんだ橘先生に言われてか。ま、そうだよね」

「はい。…まあちょっとは労ってやろうみたいな気持ちもありましたけど」

そういう気持ちが全くなかったわけじゃない。

「おぉ？これは藤川が言ってたことも案外的外れじゃない？」

あの人一体この人たちに何吹き込んだんだ…

めんどくさくなってきたので話を変える。

「そう言えば緋山先生はどうなんですか？彼氏と」

「あー、彼氏ね。まあまあってとこ」

「めっちゃ幸せな顔してますけど」

「そりゃあ幸せに決まってんでしょ。アンタみたいな冷めた奴にはわからないだろうけど」

緋山先生の携帯が鳴る。おそらく白石先生だろう。「コーヒーありがとね！」という言葉と共に走って行ってしまった。