裏腹、恋してる (ページ8)

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「誰かいないかな」

と見回すが、こう言う時に限って誰もいない。

あ、ナースだ。

「あの、藍沢先生って…」

「今オペ入ってます。脳外の手伝いで」

え、オペ！？それもなんで脳外科の！？

そんなことを考えていたらナースはあっという間に消えてしまった。

ていうかオペで消えてるなら無理じゃん！

部屋の方に戻るとまだ騒いでいる。

「そんなに興奮されたらまた症状が出てきちゃいますよ！」

「落ち着いて！」

…こうなったら、仕方ない。

扉を開けると、誰もがこちらを見た。横峯先生の安心した顔が、一瞬にして絶望に変わる。

「おじいちゃん、私の話聞いてもらってもいいかな？」

「あぁ！！？なんで俺がそんなこと…」

「私の祖父ね、漁師だったの。いっつも海に出てたよ。今はもうやめちゃったけどさ。長崎の平戸ってわかる？」

患者さんの興奮が少し収まる。冴島さんが点滴が抜けてないか確認を始めた。

「…そうか。漁師か。生きてんのか？」

「うん。生きてるよ。三年前に大腸の病気しちゃってさあ、大変だったけどね」

「そうかい。そんだけ想ってくれる孫がいるから、漁師やめられるだろうな」

舌打ちをしてふて寝してしまう患者さん。

横峯先生をチラリと見てから、病室から出た。

「わっ！」

病室の外に出てすぐ、目の前には藍沢先生が立っていた。

「…いいか」

邪魔していたことに気づき、すぐに右側にずれた。

「すみません」

藍沢先生は病室へと入っていった。

これで、大丈夫、なのかな？

藍沢先生を呼んでくれた名取先生のことなどつゆ知らず。