裏腹、恋してる (ページ42)

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店を出てからも、名取先生はわたしの一歩先を行ってしまう。

「なとりせんせ、待ってくださいよ」

「やだね」

足元がおぼつかないわたしを見かねてなのか、手を伸ばしてくる名取先生。

「お前に合わせてると終電が無くなる」

「じゃあ私一人でかえりますから」

名取先生のそれはそれは大きなため息が聞こえてくる。

さっと手を握られた。そのまま名取先生側に引っ張られる。

「それが出来そうなら俺一人で帰ってたから」

「しんようないな、わたしふふ」

ビルの灯りと街灯に照らされ、道にいるのは私たち二人だけ。

なんだか違う世界にいる気分だった。

「なとりせんせの家はここからどれぐらいですか？」

「俺はすぐ近くだよ。最寄りの一個先」

住所を言われてもピンと来なかった。まあいっか。

「なとりせんせ、わたし送ってったら終電なくなりません？」

「あーまあそうなったらタクシー使うし余裕」

「さすがおぼっちゃま」

そう言うと強く引っ張られた腕。

「…お前さ、朝になったら記憶無くすタイプ？」

いや顔近！と思いながら「たまに覚えててたまに忘れてます」と答えた。

「…あっそ。」

そう言うとまた歩き始めた名取先生。

「名取先生？「忘れるなら、

忘れてくれるなら、今の時間だけ颯馬って呼べよ」

わたしの言葉を遮って言われた言葉。

「颯馬先生？」

「いや先生とか付けなくていいし。今は先輩後輩とか、そういうのいらないじゃん。病院の外なんだからさ」

ぎゅうっと強く握られた手のひら。心なしかさっきより熱くなってる気がする。

「悪い、なんでもないわ」

「颯馬、今日はありがとう。私、嬉しかったよ」

二人の言葉が重なってしまった。名取先生…颯馬がなんと言ったのかわからない。

「何、俺今日感謝されるようなことしてないけど、」

「好きって言われて嬉しくない人、いないよ」

颯馬の目線が泳いだ。動揺してる時の癖だ。

「颯馬？」

「いや、別に俺はそんなこと言われようが、何とも思わねえし。期待もしねえし、お前が家に着いたらさっさと帰るし」

「…もう少し、一緒にいる？」

この時ばかりは、颯馬の感情が読めてしまった。

寂しい、って顔に書いてあったから。

でも、私の思い上がりかもしれない。自分でも自分がよくわからなくて。

「…………いる」

颯馬が震えた声でそう言った。

本当は、私が寂しかっただけなのかもしれない。