裏腹、恋してる (ページ41)

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side A

三杯目あたりになって体が熱くなってきた。となりの雪村さんが「顔赤いですけど大丈夫ですか？」と聞いてくる。

「へーきですよ～へへ」

名取先生が「だめだこりゃ」と呟いた。

「すみません、私明日も朝からなのでそろそろ帰りますね」

雪村さんがそう言ってお財布から3000円を出して立ち上がる。

横峯先生がその3000円を受け取り、「気をつけて帰ってね！」と手を振った。

酔っていたとは言え足元がふらつく様子のない雪村さんに内心すごいなあと思う。

「灰谷先生は午後までだからまだいるよね？」

「え、あ、うん。夜遅いし、横峯先生送ってくよ」

「え、本当に！？助かるありがとう～」

灰谷先生がそれはそれは嬉しそうに頷いた。それを見ていた名取先生がため息をつく。

「じゃあ名取先生はちゃんとAちゃん送ってくんだよ？」

「は？俺もうそろそろ帰りたいんですけど。つーか横峯、お前朝からじゃないの？」

「私は余裕だよ余裕～」

そう言ってカシスオレンジを飲む横峯先生。

名取先生は「しーらね」と頭の後ろで腕を組み、そっぽ向いた。

私はレモンサワーを飲みきり、もう一杯頼もうとメニューに手を伸ばした…

けど、それは名取先生の手によって止められる。

「医者の癖に酔いつぶれんなよアホ」

「わたし顔にでるタイプなだけだから大丈夫ですよ」

「いや手超熱いし。呂律も回ってねえし」

そうかな？自分ではいまいちわからない。

こんなに飲んだのは久しぶりだ。

名取先生が唐突に立ち上がった。財布を取り出し5000円札を出した。

「これ」

「え？ああ帰る？待って今2000円出すから」

「いらない。桜田、1000円出して」

へ？と固まってしまった。はやく、と急かされ横峯先生に1000円札を渡す。

「でも名取先生それじゃ…」

「いいから行くよ、じゃまた明日」

名取先生が二人に手を振って先に出ていってしまった。

「ちょっとまってくださいよ、あ、今日はありがとうございました！また明日からもおねがいします！」

横峯先生がわたしの手を掴み、「絶対名取先生の家なんか行っちゃダメだからね！」と耳元で囁かれた。

「行かないし多分入れてくてないですよ」

「いやあ、名取先生はケダモノだから」

ケダモノ？名取先生が？

固まっていると、名取先生が戻ってきた。

「置いてくよ～」

笑顔の名取先生に挨拶もそこそこに、急いで名取先生の方へ走っていった。