裏腹、恋してる (ページ39)

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「そう言えば雪村さんには彼氏いないの？」

え。

これだけやさぐれてる雪村さんに聞けるのは多分横峯先生だけだ…。

雪村さんが烏龍ハイを飲み干し口を開く。

「いりません」

「え？」

「彼氏とか必要ないです」

やっぱり。

予想通りの答えに横峯先生以外の私たちは枝豆に手を伸ばす。

「灰谷先生は？」

「僕はそんな…僕なんか好きになる人いないよ」

「出たー、灰谷の超絶ネガティブ癖。たしかにそんなじゃ彼女は夢のまた夢だな」

名取先生がそう言ってビールをどんどん飲んでいく。

「でも俺、名取先生には彼女いると思ってた」

灰谷先生が言うと、ビールを零しそうになる名取先生。

「はぁ？なんの根拠もねぇこと言うな！」

「まだ来てからそんな経ってないとき、名取先生ずっとスマホいじってるからさ。

何をそんな見てるんだろうって不思議だった」

へぇ、名取先生って最初はそんな感じだったんだ。

その名取先生もちょっと見てみたかった気もする。

「あーあれ？あれは別に友達とラインしたりとか、ネットサーフィンしてただけ」

「ほんとに？」

「嘘つく必要ないだろ」

名取先生が少し動揺した様子でビールを煽った。

「先生アルコール強いね」

「いやまだ一杯目だし。」

「僕はビール一杯飲んだら倒れる自信しかないよ」

「灰谷はそんな感じするよなぁ」

名取先生の言葉に共感しかない。

灰谷先生はソフトドリンクで楽しめてるし、それはそれでいいんじゃないかな。

もうビールを飲み干した名取先生はメニューを読みだした。

「ねぇねぇ、ずっと聞きたかったことがあるんだけど」

横峯先生が私の服の袖を引っ張る。

「何ですか？」

「Aちゃんの前の病院って、どんな感じだったの？」

「え？」

横峯先生が笑顔でこちらを見つめて来た。

「だってAちゃんって手先も藍沢先生みたいに器用だし、現場でも落ち着いてて、すごいなぁって思って。

だから前の病院もすごい所なのかな？って」

「あー、えっと、すみません、トイレ行ってきます」

「あ、うん。いってらっしゃーい」

何も答えられなかった。

嘘をつくのは早い。けど、あの四人に嘘をつくのは嫌だと思った。

トイレに逃げ込み、携帯を開く。

『まだアンタ、救命やってるの？

早く辞めなさい』

通知を開いてため息をついた。いつもこれだ。

翔北みたいに、少し歪だけど皆が仲良い。

そんな救命だけじゃない。